評価・・・78点
キャッチコピー
- この女の「正体」は…
- この狂乱を制するのは罪
- 韓国最強の地獄絵図を考察せよ
監督:ハン・ドンソク
キャスト
- キム・ユネ(主人公)
- ソン・イジェ(呪術師)
- パク・ジフン(映画監督)
- イ・サンア(会長)
感想(※以下、ネタバレあり)
フライヤーのビジュアルにガツンとやられて、公開日を楽しみにしていた一本です。
公開2日目の土曜日に劇場へ。2日目にして1日1回のみの上映と不遇な扱い。そのせいか客入りは芳しくなく、15人程度でした。
他のところでも何度も書いておりますが、私は基本、映画に関する事前情報を入れずに、純粋な気持ちで全力でぶつかるタイプ。ダメで元々の玉砕覚悟の特攻精神。
今回もまっさらで真っ白で新鮮で真剣な気持ちでスクリーンに向かっていると、なんだか走るゾンビが現れて、使い古された表現のオンパレードが始まりました。うわ、これはやってしまったかな、これは凡作だなと張り詰めた精神を解き解いて、まあこんな日もあるさ、とややリラックスして、いや正直言ってだらけた気持ちで鑑賞を続けました。
しかし、今作はここからが本番。だらけた観客(当然、私も含まれます)の度肝を抜く展開が続きます。
陳腐なゾンビ物だと油断したところに、ガツンと呪術物、さらに復讐物、さらにオーメン…と趣きが次々と変わる展開が続き、観客をいい意味で落ち着かせません。
あれ、こんな映画だったの!?
あ、そう来るか!?
そんな気持ちに何度もさせられ、非常に楽しく鑑賞することができました。
しかし、見終わった後に、なんか物足りないというか、食い足りないというか、お腹はいっぱいなんですが、なんだか口寂しい気持ちがつのります。
その原因について、言語化してみます。
今作はそれぞれの登場人物にスポットを当てた章仕立てになっています。
しかしこれがとにかく中途半端。章仕立て形式を採用したのならば、時系列がぐちゃぐちゃになってもいいから、それぞれ章で、それぞれのキャラクターをもっと掘り下げて、完全に分離した物語とし、最後に全てのパーツが1つになる展開であったのなら、もしかしたら、今年ベストになったかもしれません。
描きたいことをバラバラに並列に置いてしまい、さらにそれぞれのパーツの辻褄を合わせるため、説明口調の取ってつけたようなセリフや無理筋な設定が出現し、その度にワクワクが消えて、スンっと冷めていく感じを味わいました。
そもそもサイコで悪魔な彼女が売れない女優という地位に甘んじるかしら?それこそ、悪魔的な力を使ってのし上がっていくと思うんだけど?と疑問が湧き起こり、気持ちが冷えていきます。
その矛盾を解消するため最終奥義の「記憶喪失」を使われると、あーあー、なんだかなーという気持ちになり、現実に引き戻されてしまいます。
うまい料理を食べてる最中に会社の上司から電話が来て、ぐちぐち文句を30分くらい言われた後に食事に戻っても、気持ちが冷めてしまって美味しく感じられない…そんな感じ。
そもそもサイコで悪魔な彼女があんな単純なことで記憶喪失になるかしらね?
呪術師の彼女の動機もなんか薄味で共感できないし、会長が悪魔を滅ぼすために用意した舞台設定も、そもそもそんなに犠牲者必要?と疑問が残るし、犠牲者として選ばれた映画スタッフたちも「彼らも罪を犯している」と取ってつけたようなセリフで片付けられてもねえ。そんな責任逃れ的なセリフを吐かせるから、会長の「罪」がなんか薄ペラに感じるんですよね。
しかし見どころもたくさんあります。
とくに前半の呪術ダンスは怪しくて美しかった。あの部分をもう少し尺を取ってじっくり見せて欲しかった。また、同じダンスを怪しい呪術師衣装でリピートして、あのダンスがいかに禍々しいものだったのか、美しく踊っていたけど、とんでもない代物だったんだぜというのを表現してもらいたかったです。
あ、あと、最後の「これからが本当の戦いだ」的なのもいらなかったです。
まとめ
一粒で2度も3度も美味しくなるはずが、全体がピンボケの薄味になっちゃったという、非常にもったいない作品です。
ただ、その心意気やよし!
凡百の当たり障りのない、いわゆる置きにいった作品を観るくらいなら、今作をみて、友人とあそこがよかった、あそこがダメだったと語り合った方が、百万倍もマシでしょう。
ぜひ、お試しください。