評価・・・91点
キャッチコピー
テレビ史上最恐の放送事故。
監督:ケアンズ兄弟
キャスト
- デヴィッド・ダスマルチャン(司会者ジャック)
- リース・マウテーリ(番組のボケ担当)
- イングリッド・トレリ(リリー)
- ローラ・ゴードン(超心理学者)
- イアン・ブリス(米国版大槻教授)
- フェイザル・バジ(インチキ霊聴者)
感想(※以下、ネタバレあり)
みなさんは、「誰も生きて戻らなかった。残されたのはビデオカメラのみ。残された映像には驚愕の事実が…」というお話はお好きですか?
あるいは「男が失踪。自宅は全焼。そこには妻の焼死体。いったい何が起きたのか?男が残した最後の映像にその真実が!」というお話はいかがでしょうか?
私、大好物なんです。
これらは、いわゆるモキュメンタリーで、さらに細かく分類するとファウンドフッテージといわれるジャンルです。
第三者によって発見された映像、という意味ですね。
食人族、ブレアウィッチプロジェクト、クローバーフィールド、REC、ノロイ、コンジアム、女神の継承などが代表的な作品となります。
今作はファウンドフッテージものというだけで、依存患者のごとく飛びつきました。何もチェックせずに、いやむしろ、意図的に情報を遮断して、劇場に向かいました。
だって、まっさらな気持ちで映像発見者の気持ちになりきって、何が写っているのかドキドキしたいじゃないですか、驚愕の真実を知りたいじゃないですか。
その私の真摯な思いが通じたのか、大当たりのファウンドフッテージ体験でした。
なので、ここまで読んで興味を持った方は、以降は読まずに劇場に向かってください。
以下、ネタバレありで、感想を述べます。
前哨部分も見応えあり
もともと怪異の撮影が目的でなく、本来は別の目的で撮影していたら、とんでもないことが起きて、とんでもないものが撮れてしまった。というのがファウンドフッテージの醍醐味。醍醐味ではありますが、とんでもないことが起きるまでがムチャクチャ退屈であったり、伏線も特になく、ただただ怪異とは関係のない緩んだ映像がダラダラ続くものもあります。
しかし本作は全くそのような気配がなく、むしろドラマ部分、導入部分こそ撮りたかったんじゃないか?と思えるほど気合が入っております。
知らない人に、50年前のバラエティ番組だよと見せたら信じてしまうほどの完成度。
全く退屈することなく、むしろ楽しんで前哨部分を堪能することができます。
この前哨部分の完成度があるからこそ、観客はモキュメンタリーという虚構に肩までゆっくり浸かることができるのです。素晴らしい。
限定的な空間と制約のある時間と濃厚なキャラクター
今作は「生放送のバラエティ番組で起きた事件」を扱っているので、登場人物は番組出演者と裏方、場所はスタジオといずれも限定されています。
それを逆手に取って、閉塞的な空間に濃い出演者を盛り込むことで、濃密な状況を作り出すことに成功しています。
さらに、これ、ヤバいからやめた方がいいんじゃない?と立ち止まるべき瞬間にも、生放送だから仕方ないよ、前に進めるしかないよという理由付けにもなり、事態がどんどん悪い方に進んでいくことに納得感を与えています。
そのような舞台の上に乗るのが濃厚キャラクター達。
インチキ霊能者、ミミズ恐怖症のハゲ、米国版大槻教授、そしてカメラをガン見のリリー……
リリーのキャラクター造形の素晴らしさにとかく目を奪われがちですが、私はミミズ恐怖症のハゲと大槻教授が影の立役者だと思います。
もうやめようやーと弱気なハゲは観客の代弁者、全部トリックだ!と喝破する大槻教授は観客を現実に戻す先導者です。
彼らは映画に深みを与える影の立役者であると同時に観客の心をうまく誘導する無くてはならない存在です。
考察の楽しみ
発見された映像という虚構であるため、すべては語られていません。
そのため、映画終了後もあれこれと思い返しては考察する余白が残されております。
本来は友人と和気藹々と食事でもしながら、あれこれ考察するのが楽しいのですが、あいにく私の周りにそのような人がいないので、私の考察をここでお聞きいただけると幸甚です。
まずタバコを吸わない妻に末期の肺がんが見つかり、死んでしまった原因は、司会者が加入している秘密クラブで願掛けしたせいでしょう。有名人にしてやるかわりにお前の大事なものをよこせと。
ラストの悪魔大暴れシーンは、現実ではなく悪魔が見せた幻覚ではないでしょうか。その直前に米国版大槻教授が見せた催眠術のさらに上を行く強烈バージョンだと思われます。その幻覚は我々視聴者にも影響を与え、あたかも悪魔が降臨したかのように感じさせながらも、その実は暴走した司会者による虐殺であり、テープを再生し直すと悪魔のかけらも映っておらず、ただただ殺しまくる司会者が映っているだけ、というオチだったのではないでしょうか?
視聴者にまで、幻覚作用を及ぼすため、リリーはカメラをガン見していたのではないでしょうか?つまりリリーには最初から悪魔が憑いており、悪魔が降臨したわけでもなんでも無く、最初から最後まで悪魔の手のひらの上であったと解釈いたしました。
最も悪魔大暴れシーンのリプライ映像がないので、司会者が全員を虐殺したのか、リリーだけを殺したのかは、映画の観客(映像発見者ではない)に委ねられていると感じました。
まとめると、有名人になりたくてたまらない司会者が、秘密クラブで願掛けしたら、番組に悪魔が降臨。視聴率爆上げ。番組の最中に願掛けが原因で妻を失ったことを知り、動揺し、絶望し、さらに悪魔の見せた強力な幻覚で、番組内で大量殺人を犯す事態に。そうして、彼は全米一有名な司会者として名を残すことになった。なお、悪魔は最初からリリーに憑いており、美人超心理学者と司会者が恋仲になったのも、この番組にリリーが出演することになったのも、全ては悪魔の計画のうちであり、おのれのせいで妻を失い、おのれのせいで大量殺人者になるという二重の絶望を与えたのであった…というのが私の1回目の視聴で得た考察です。
皆さんはどう考察されましたか?
不満な点
全体として最高の出来だったのですが、唯一の不満の点は、最後の最後にモキュメンタリーから飛び出して、司会者だけが見ている幻想の世界になってしまったこと。最初から最後まで、モキュメンタリーという虚構に私を押し込んでおいて欲しかった。
あの幻想世界の代わりに、自分のせいで妻を失ってしまったことをもう少しベタに描いてもよかったかな。
そうすれば、司会者の絶望の底の絶望を我々もリアルに堪能できたことでしょう。映画鑑賞者としてでなく、映像発見者という虚構のパーツとして。
まとめ
久しぶりの大型モキュメンタリーを堪能できて大満足の一本でした。
2度、3度と味わいながら観ることのできる傑作です。