みなに幸あれ【2024年】圧倒的な存在感の古川琴音。彼女とともに巡る不気味村クルーズ。紙一重の秀作。

映画

評価・・・83点

あらすじ

久しぶりに祖父母が住む田舎に帰省した孫。昔懐かしい穏やかな村が徐々にその本来の姿を見せていく。

監督:下津優太

「日本ホラー映画大賞」にて大賞を受賞し、本作にて監督デビュー。

キャスト

  • 古川琴音(孫)
  • 松大航也(幼馴染)

感想(※以下、ネタバレあり)

公開日から1週間経過した金曜日の夜に鑑賞。客席は8割方埋まっていました。

この手の映画を大勢の好事家たちと見れるのは、都会にいてこそだな、都会は嫌なことも多いけど、たまにはいいこともあるなとハードだった1週間を振り返りながら着席。

さて、映画の方ですが、古川琴音サイコー!の一言に尽きます。

仲良し家族の何気ないシーンから物語は始まります。

徐々に不気味さと不穏さを増していき、そこから一気に古川琴音がアップになり、「みなに幸あれ」とタイトルがバーン!最高です。

プロットは、古川琴音が田舎に行って戻ってくるという、マッドマックス怒りのデスロード的な話なんですが、行く前と、戻ってきてからの表情の演じ分けが素晴らしく、ラストのトドメとしてタイトルバーンも対比が効いていてよかったです。

この笑顔はミッドサマーのフローレンス・ピューのそれに匹敵する。素晴らしい。
不気味村クルーズ、スタート!

観客は古川琴音を先導役に不気味村をジャングルクルーズしていきます。

優しいおじいちゃんとおばあちゃんが今も住む昔懐かしい村が徐々に、おじいちゃんが変かも?おばあちゃんが変かも?この村おかしい、いや、ジジイもババアもいかれてやがる!この村、クルッテヤガル!となっていく様はシャマランのビジットぽくもあり、アリアスターのミッドサマーテイストでもあります。

また、不気味村クルーズといってもありがちな薄暗い画面でなく、比較的明るい画面であるところも、これまたミッドサマーを思い出させます。

ただ、残念なのは、不気味さを演出するためだけの意味不明なシーンがちょいちょい出てくるところ。

さっきまで元気におしゃべりしてたおじいちゃんが、ふと気付くと薄暗い廊下で虚空を見つめて、ヴァァァァ…

さっきまで笑ってたおばあちゃんがクソババアになって、薄暗い廊下を突進…

クソババアが組体操の上で出産…

などなどは、「ここら辺で不気味なシーンが欲しいな…、そや!前から温めてたアイデアを唐突だけど、盛り込んだろ」、「良質なホラーはコメディに近づくともいうな…、そや!不気味ながらも笑けるシーンを盛り込んだろ」といった邪心が透けて見えるようで、正直げんなり。

また、考察すれば面白そうなシーンについても、頭の出来が一般的なマス層代表を自認する私としては「どうせ頭のいい奴ら、わかってますよ系の奴ら向けのシーンだろ?くだらねえ」と心がささくれてしまいイマイチ乗れませんでした。

それでも最後まで、退屈することなく走り切れたのは、ひとえに古川琴音の秀逸な演技力と圧倒的な存在感によるところが大きく、このクルーズの船頭が優秀であるため、色々な粗もスパイスのごとく感じられるのは不思議なものです。

ちょっと想像していただきたいんですが、無口で無愛想でしかめっつらの船頭が案内するディズニーのジャングルクルーズってどう?ゲンナリでしょ?

この映画も船頭たる古川琴音ありきで成立しており、彼女でなければ、ゲンナリなクソ映画に成り果てていた可能性もある、紙一重の作品だったと感じています。

見よ、この圧倒的存在感を。

と苦言をいろいろ述べましたが、この作品が凋落激しいJホラー界における「新たなる希望」であることは間違いありません。

また、下津監督はこれが長編初作品とのこと。今後追いかけたい監督の一人です。

そして何より、この作品は、これからますます才能を開花させていくであろう古川琴音の新境地を見逃す手はありません。

まとめ

ミッドサマーとビジットとコクソンをミックスして微妙な感じになりかけたところを、古川琴音の才能により強引に秀作にもっていった作品というのが全体的な感想です。

古川琴音は今回の初ホラー主演にて、あらたな境地を獲得したといえるでしょう。

「ミッドサマー」のフローレンス・ピューや「スプリット」のアニャ・テイラー・ジョイのように、才能を開花させていくさまを追いかけていきたいと思います。

劇場公開数は少ないですが、劇場に足を運んでいただきたい1本です。

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