ヘルドッグス【2022年】いい意味で邦画らしくない!邦画嫌いもぜひ見てほしい。

映画

評価・・・84点

あらすじ

ヤクザ組織に潜入した警察官(兼高)が組織のなかでも狂犬と呼ばれる男(村岡)とバディを組んで、組織内でのし上がっていく。兼高は果たして任務を無事に果たせるのだろうか?騙されてバディを組んだ村岡の運命は?

監督:原田眞人

燃えよ剣(2021年)
関ケ原(2017年)
日本のいちばん長い夏(2015年)
金融腐敗列島【呪縛】(1999年)

キャスト

岡田准一
坂口健太郎
松岡茉優
MIYAVI
北村一輝
大竹しのぶ

感想(※以下、ネタバレあり)

邦画を観る際に、まず出演者のところをチェックし、グループ系女性アイドルやグループ系男性アイドルが出ている場合には、まず候補から外すようにしている。

彼らが出ていても素晴らしい作品があることは知っているが、ハズレが多いのもまた事実。コンテンツが溢れかえっている現代社会において、あえてそれらを選択しなくても、観たい作品はうなるほどある。あえて博打を打つ必要がない。

そんな中で、グループ系アイドルながら観たい俳優、むしろ積極的にチョイスする俳優がいる。

それが岡田准一だ。

彼のアクションは作品ごとに磨きがかかり、アクションだけ取ればけっしてハリウッドのそれとけっして引けをとらない。日本のキアヌ・リーブスといっても過言ではないだろう。

そんな彼が潜入捜査官としてヤクザ組織と渡り合うストーリーと聞いては観ない手はない。

結果として、「大当たり」の作品だった。配信サービスで視聴したのだが、ぜひ映画館で観たかった作品だ。

邦画でさらに嫌なところは、ストーリー無視の人気アイドルありきに加えて、変な説明口調の妙にハキハキしたセリフ回しがまかり通っているところだ。

当作品は、そのようなセリフが皆無だ。

そのため、もしかしたら通常の邦画ファンからは不評かもしれない。

観客をあえて無視したかのような早口なやりとり極力状況説明を省いたスピーディーなやりとりで、独特の緊迫感が生まれていた。

映画に演劇口調を持ち込まれるとものすごく違和感があり、ゲンナリするのだが、それがまったくなく、部分部分はドキュメンタリーのような迫力があった。たしかに聞き取れないセリフや置いてけぼりになりそうな瞬間もあったが、むしろ聞き取りづらいことでリアルでかっこいい映像となっていた。(これはシン・ゴジラでの官僚同士のやり取りにも通じるものがある。あの映画も早口でわからないと一部では不評であったと記憶している)

特に好きなシーンは、クラブでの襲撃シーンだ。



このシーンではひとりひとりのセリフが孤立しておらず、ときにセリフがノイズとしての役割を果たしており、緊張感を生むことに成功している。

よくあるパターンだと、誰かが喋る、みんな黙って聞く、次に別の人がしゃべる、それをみんなが黙って聞く、それを同じトーンで同じスピードでまったりと続く。。。という素人テニスのまったりラリーを観ているようで眠くなってくるのだが、当作品ではあえて雑音のようなセリフを入れることで、素人テニスになることを防いでいる。

例をあげるとこのような感じだ(うまく伝わるかどうか・・・)

岡田:(毒入りのウイスキーを突きつけながら)いいから飲んでみろよ
~背後にはヤクザたちとホステスたちの嬌声~
ホステス1:会長のためにお作りし・・・(よく聞き取れない)
岡田:いいから飲め
ホステス2:やだ、酔っちゃっ・・・(よく聞き取れない)
岡田:毒見しろって言ってんだ!

この後、アクションシーンへと移っていくのだが、聞き取りにくいセリフを織り交ぜることで、まるでドキュメンタリーのような独特の雰囲気を生み出すことに成功している。

このように非常に邦画離れした劇画的でないスタイリッシュな作りとなっているが、惜しむらくは相棒役の坂口健太郎組長役のMIYAVIだ。

この二人のセリフがいつもの邦画の悪い癖である演劇口調、いわゆる聞き取りやすいセリフで、この作品の独特な空気感のなかで浮いてしまっている。

とくに、坂口健太郎は肩の力を抜いて頑張らないで、無理にサイコな雰囲気など出そうとせずに淡々と演じた方がよかったのではないか?そうすれば全体の緊迫感を削ぐことなくとけこめただろう。

事実、ヤクザパートでない被害者遺族会と加害者遺族会の集まりのシーンでは肩の力が抜けた良い演技をしていたので、ヤクザでさらにキレたサイコ野郎という独特のキャラを演じようと肩に力が入ってしまったのかもしれない。

これは坂口健太郎に求めすぎかもしれないが、アクションシーンにキレがない。ボディガードのオーディションのシーン(ここもなかなか印象深いよいシーンだ)で、ゴングの前に岡田・坂口コンビが他の参加者に襲いかかるのだが、岡田が俊敏な動作でタックルからパウンドを決めるのに対し、坂口は中学生か酔っぱいの喧嘩みたいでダサいことこの上ない。

そういった意味で、最後の坂口と岡田の対決シーンはアクションシーンをばっさりカットしたのは英断だったと思う。

逆に、組長と岡田の対決シーンは体術は無理だと判断したからなのか、ガンアクションが中心となっていたが、これがもっさりしていて残念。このシーンも同様にばっさりとカットして、5秒程度のやり取りですぱっと撃ち殺す感じでよかったのではないか?

MIYAVIと坂口、この二人の演技力のせいもあるが、組長と岡田、坂口と岡田、この2組の心の絆がうまく表現できていなかったのが非常にもったいない。組長と岡田では似たような立場でお互い共感できる部分があるはずだし、坂口と岡田には師弟関係を超えた絆があったはずだ。その部分がうまく落とし込めてない。

そのため泣けるシーンであるはずのラストの出会いのシーンが台無しだ。監督は最後のシーンは泣けるシーンにしたかったはずだし、僕も号泣したかった。

まとめ

展開が早くて誰が誰だかわからない、セリフが早口でわからない、説明が不足している、などの意見を持つ人がいるかもしれないが、邦画はそれらの全方向からの意見を満たすために、今のような形態に陥ってしまっていると思われる。八方美人の嫌われものだ。それらの要望をバッサリ切って、緊迫感を出すことに集中した今作は素晴らしいし、これからも批判覚悟で作品を作ってもらいたい。

他の邦画関係者の方々もこの映画を見習って、八方美人のいい子ちゃん病から抜け出してもらいたい。

とにかく、この作品は傑作だ。

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