評価・・・40点
あらすじ
劇場公開は2020年8月。売れない芸人が番組の企画で、過去に死者が出たいわくつきの物件、いわゆる事故物件に実際に住み、どんな怪異がおこるのかを検証することになった・・・
芸人・松原タニシの実体験を記したノンフィクション「事故物件怪談 恐い間取り」をJホラー界の巨匠中田秀夫監督がどのように料理したのか?
監督:中田秀夫
キャスト
亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、江口のりこ
感想(※以下、ネタバレあり)
僕はホラーが好きだ。スプラッターもゾンビも超常現象系もみんな好きだ。もの
そんな中でもとりわけ好きなのが、ホラー×ミステリー、すなわち謎解きの要素が入っているホラーだ。
このジャンルで最近印象深いのは、小野不由美原作、中村義洋監督の「残穢」(2016年)であろうか。
しかし、このジャンルには忘れてはならない、化け物的作品がある。そう!今回の監督でもある中田秀夫監督の「リング」(1998年)である。
常に「あの」と枕詞が着く作品はいくつかあるが、「リング」もそのような作品であろう。ただの驚かしの作品でなく、謎解きの快感とどんでん返しの展開は観たものの心に刻まれるだろう。
「あの」リングを撮った「あの」中田監督がホラー映画をまた撮るって!?リングを知っている者からしたら期待するなというのも無理な話だ。
今作は亀梨扮する売れない芸人が仕事を得るために嫌々ながら過去に自殺や事件のあった曰く付きの部屋(事故物件)に住んでみるという話。単純なストーリーで好ましい。ホラーは単純な方がいい。
亀梨のことを気にかける謎の女性として梓役に奈緒。最近注目の女優だ。
さらに亀梨の元相方役として瀬戸康史とこれまた売れっ子を配している。
キャスティング等を見ても、真面目にホラーに向き合い、さらにちゃんと売れるものを、まじめに作ろうという気概が見て取れる。
大好物の予感がビンビンだ。では、まずは結論から言おう。
この映画は失敗作だ。
先によかった点から述べる。(あまりにも悪い点が多いから、先によかった点を言わなければ忘れてしまう)
POV風に撮っている場面は非常に臨場感があった。特に赤い服の女が振り向くか振り向かないかのぎりぎりのところは満点だ。これぞ、Jホラーといったところ。モンスターや怪人が襲いかかってくるよりもよっぽど恐ろしい。
売れない芸人であった亀梨が事故物件に住むようになり、芸人としてどんどん面白くなっていくシーンはサクセスストーリーを見ているようで小気味良い。このあたりをもっと丁寧に描いてくれたら、事故物件に住むのをやめたくてもやめられない感がもっと強調されていたはずだ。
亀梨が奈緒の好意を利用して霊視させるシーンもいい。クソなダメな感じがででいてよかった。
ここまでが良い点。あとは悪口を書く。
まず、奈緒の存在。彼女の演技力を期待して、驚く彼女をみて幽霊を見て我々観客がより驚く、という効果を狙ったのだろうが、それ以外のシーンが蛇足。
面白ければいいんだよ!売れたいんだよ!そのためだったら何でもやってやるよ!という芸人が怪異に飲み込まれていくのを僕は見たい。その僕に彼女と亀梨のほんわかラブコメ見せてどうするの?
「本当のお笑いとは〜」とかくだらない説教もウザい。ウザいだけでなく、むやみに長い。過去の回想シーンはもういいよ、ほんとは亀梨君は良い人なんだよとかいらないよ、はやく恐怖をくれ、謎をくれ。
あと、霊視できるのはいいとして、最後の部屋に引っ越す前に間取りだけ見て、「その間取りだけはダメー」って。間取り見ただけで判断できるほど、強力な能力の持ち主だったけ?ああ、そうか、副題が「怖い間取り」だもんね、ここで伏線回収しておかないと詐欺だもんね。ほんとやっつけ仕事。
極め付けは最後のラスボス。これまでのJホラーの常識を覆えす物質感ありまくりのフードを被ったラスボス。うん?アベンジャーズのビジョンじゃないよね?あ、あれだ!スターウォーズのシスだ、ははは、まさかね…
えっと、なになに、瀬戸くんが線香の束に火をつけて、息をフー!
お、線香攻撃が効いてるみたい、やっぱシスじゃないんだな、よかった、よかった。
と思ったら奴が瀬戸くんに手をかざしてフォースの力でドーン!
って、シスじゃねーか!
アホか!
さらに、シスの攻撃をお笑いの小道具であるビニール傘で防いだ!そうそう、この傘は亀梨が「正しい」お笑いをしていたころの思い出の傘だ。そうそう、「正しい」笑いが、そうそう「愛」がシスの攻撃すらも跳ね返す。ビニール傘にはご丁寧にLOVEって書いてある!感動するわ~
って、アホか!
まさかこれで終わりじゃないよね?このシスみたいな奴と亀梨との深い因縁とか実は亀梨が住んだ事故物件の犠牲者には共通点があったとか奈緒が亀梨に近づいた目的は別にあったとかなんか捻りがあるのよね?
と、不安になりながら見続けると確かに大どんでん返しあり。
何と物件を紹介した不動産屋のおばちゃん(江口のりこ)が祟られて車に轢かれて死亡。
って、アホか!
そして、数々の事故物件に住み続けた亀梨くんは無事に奈緒と結ばれて、今度は事故物件でない、日当たりの良い素敵物件で、同棲をはじめましたとさ。
って、アホか!
極め付けは最後のテロップ。「松原タニシは現在も事故物件に住み続けている」ってもったいつけてるけど、映画のラストと矛盾してるじゃねーか。映画の余韻もへったくれもねぇ。ずっこけたわ。
アホか!
中田監督は確実に腕のいいコックに違いない。今回はおそらく塩のかわりに甘い砂糖を入れてしまったのだろう。間違って甘ったるくなってしまったに違いない。
前段で述べた良い点を突き詰めて、全編POVで、ドキュメンタリータッチで、亀梨とともに怪異を味わい、亀梨とともに小さなサクセスを味わい、それ故に、もう引くに引けない状況を体感し、そして隠された謎の解明と回収される伏線の快感を味わいたかった。
誰かクラウドファンディング立ち上げてくれないか?
集まったお金で白石晃士監督にPOVで取り直してもらいたいと本気で思っている。