ノープ【2022年】手放しでは称賛したくない説教臭いホームルーム映画

映画

評価・・・77点

あらすじ

兄妹が経営する牧場に未確認飛行物体が出現。未確認飛行物体を撮影して一山当てようと企む妹。この未確認飛行物体はなんなのか?彼らの運命はいかに??

監督:ジョーダン・ピール

キャスト

キキ・パーマー、ダニエル・カルーヤ(ゲット・アウトほか)、スティーヴン・ユァン(ウォーキング・デッドほか)

感想(※以下、ネタバレあり)

ジョーダンピールの最新作を劇場にて鑑賞。第一作目の「ゲットアウト」で新たな才能に感動し、第二作目の「アス」であれれ?となっての今回三作目。

期待半分と不安半分の気持ちでの鑑賞となった。

結果は上記の77点という点数が表しているとおり、手放しに良かった!最高!といかないまでも、悪くないね、なかなかいいね、といったレベル。

下記にポイントを羅列していくので、参考にしていただきたいと思います。

つかみが最高!

オープニングは、真っ暗な何も映っていない画面。そこに唐突に男女のセリフのやりとりが被さる場面からスタート。そこから画面は一転して、乱れた部屋に倒れる人間の足、そしてその傍には不機嫌そうなチンパンジーが映るという、なんとも言えない不穏な雰囲気。これから嫌なことが起きそうな立ち上がりは最高。


血まみれの顔が突然出てくるよりも、登場人物にギャーと悲鳴をあげられるよりも、この無言のチンパンジーのほうがよっぽど嫌な気分を盛り上げてくれる。まさしく「不穏」だ。

さらに場面は唐突に代わり、牧場のシーンへ。

お!本格的に本筋に入っていくんだな?と予告を見た人ならば気持ちをシフトしたはずだ。当然、「ところで、さっきのお猿さんはなんだったんだろう・・・?」という気持ちを抱えながら。

ストーリーが進んでいけば、そのうち説明されるだろう、さあ、本編をじっくり観るぞ、さあ、いつから本当の恐怖がはじまるんだい?と観客が本腰を入れ始めた瞬間に、馬に乗った老人が崩れ落ちる!え!もうなの??と気持ちが揺さぶられる。

観客はもう釘付けだ。

この時点で、ほとんどの人がお猿のことを忘れて、映画に没頭していることだろう。この映画開始から老人が血まみれで病院に運ばれるまでの展開が非常に素晴らしかった。この段階で「よし!この映画はあたりだ!」と次の展開に興奮した。

音の使い方が秀逸

ゲット・アウトでもアスでも音楽の使い方が素晴らしかったが、今回も秀逸だった。未確認飛行物体が近づくと停電になり、登場人物がステレオで大音量でかけていた音楽あるいはカーステレオから流れる音楽がすべて止まるという仕掛けがあった。大音量でかかっていた音楽がピタッととまり、シーンとなった後に、突然ドーンと何かが起きるという「ちゃんと筋の通った」ジャンプスケアになっており、しらけることなく楽しく真面目に驚くことができた。

前半の嫌な雰囲気、そして中盤のジャンプスケアを取り混ぜた展開、と観客を飽きさせることなく引っ張っていく監督の力量には脱帽だ。

また、今回は音に加えて風の使い方も素晴らしかった。序盤の突然風が吹いたと思ったら、その瞬間、父親の首がガクリと下がり、馬から滑り落ちるシーンが印象深い。

前作までに見られなかったこの風による演出は、音の演出と相まって、怖い雰囲気・不気味な雰囲気をつくるのにうまく作用していた。

チンパンジーの意味

冒頭で観客に不安感を与えたチンパンジーだが、単なる雰囲気づくりの小道具でなく、きちんとその伏線を回収しながら、さらにストーリーに厚みを持たせる重要な役割を担っている。

大人たちを滅多打ちにした猛り狂うチンパンジーを自分だけがなだめることができた、自分だけが心を通わせることができたと思い込んだジュープが未確認飛行物体を制御できると思い込んでしまう。。。という建付け。

そしてそれは単なる思い込みに過ぎず、他の登場人物同様に未確認飛行物体に飲み込まれてしまうという悲劇を迎える。

このチンパンジーと未確認飛行物体に秘められたメッセージについては、別のパートでまとめて記載する。

今回のメタファー

ジョーダン・ピールは「ゲット・アウト」でこれまでの「古典的な」黒人差別でなく、新しいタイプの黒人差別を隠れたメッセージとして練り込むことで底知れぬ恐ろしさを描いた。それは「古典的」でないがゆえに見えづらく、より根深く進化した差別だ。

今回のメッセージは、差別やそれにまつわる問題については、見て見ぬふりをするのが一番である。。。という風潮についての批判だろう。(あくまで私の考察です。)

  • 「それ」を見て叫び声をあげた人々はみんな飲み込まれた。
  • 「それ」を映像に取ろうとした監督は飲み込まれた。
  • 「それ」を手懐けようとした男は飲み込まれた。

本作では「それ」をみてはいけない!と顔をそらすことで、見ないふりをすることが唯一の助かる方法として提示されていたが、現実社会の差別の問題についても、「ないものとする」、「なかったことにする」、というのが面倒なことにかかわることを避ける大人の対応であり、この社会で生きていく知恵として我々に染み付いている。

でもね、「それ」から目をそらさずに果敢に立ち向かうことが物事を根本から解決する唯一の道なんですよ。。。というなんか「ありきたり」なお説教で幕を閉じたのが、なんか不満で、え?これだけ?という感想をもったのは、私だけではないと思う。正直、ゲット・アウトの深みはなかったな。

ジュープとチンパンジーの関係は、アジア人とチンパンジーの関係を表していると感じた。これまで、ジョーダン・ピールは黒人差別を中心に語ることが多かったため、この描き方は新しい試みといえる。

アジア人に対する差別に対して、ジュープは(つまり東洋人は)真っ向からぶつからずに、しなやかになんとか「飼いならして」きた。そして、今回も同様に飼いならしてやろう、つまり迎合してなんとか生きていこうという姿勢を表現しているのかなと感じた。

我々日本人は差別問題を考えるときに、なぜか、「差別する側」の視点で考えるんだが、アメリカでは違うからね?アジア人はバリバリ差別の対象だよ?むしろ現代では黒人差別より苛烈ともいえる状況。

ヒエラルキーでいえば、白人>黒人>ヒスパニック>アジア人。。。の順ですからね。最下層ですから。

いやいやアジア人ちゅうても、中国人や韓国人とは違うでしょ?日本人は偉大ですから!って思っているアナタ、残念!差別するようなアホなアメリカ人にそんな区別ついてませんから!

そんなわけで、アジア人がアメリカで受けている差別について扱ったところはよかったし、われわれ日本人もアジア人差別について、しっかり考えるべきだなとも感じた。

感じたけれども、なんか説教臭くてうまく気持ちがのれないんだよね。

未確認飛行物体の造形

前半を嫌な雰囲気でひっぱり、そして中盤はジャンプスケアを織り交ぜながらストーリーを転がし、そして後半に向けて未確認飛行物体の正体が明らかに。。。という展開であったが、正直未確認飛行物体の造形がいただけなかった。

だって、まったく怖くないんだもの。

特に変形してからはエヴァンゲリオンの使徒みたいな造形になり、よりいっそうチープ。変形前も微妙だったが、変形後は小学5年生が夏休みの宿題でつくった模型のようになってしまった。

さらにゲイラカイトのようにフワフワ浮いているので、まったく重量感を感じず、できの悪いビニール製のアドバルーンのよう。ラストは本物のアドバルーンに噛みついたら、爆発してバラバラってどんだけ脆いんだよ!弱っちすぎだ!アドバルーンより弱いアドバルーンって、それはアドバルーン以下のゴミだよ。

この造形もなんらかのメタファーが込められているんだろうけど、むしろ怖くない方向へひっぱられていて、本末転倒である。

巨大でかなわないと思える差別問題も中身はスカスカのアドバルーンみたいなもので、立ち向かえば倒せるよ的なメタファー?

いずれにせよ、怖くなきゃ意味がないでしょ。。。

まとめ

「ゲット・アウト」では社会にはびこる新しいかたちの差別問題について、直接話法で語らず、映画の背後に練り込むことで映画全体がどうしようもない不穏感を出すことに成功していた。メッセージ性と娯楽性がうまく融合した作品であった。

対して、今作はメッセージ性を強く出しすぎて、映画としての面白さが半減してしまっていた。

前半90点+中盤80点+終盤60点で平均して77点(端数切り上げ)といったところ。前半のテンションそのままに、メッセージ性など無視して娯楽作品に振り切っていたら、傑作になっていたに違いなく、まことに残念。

そもそも映画とはなんなのか?

僕は「映画とは娯楽、エンターテイメントにすぎない」と思っている。ワクワク、ドキドキできるかどうかが重要だ。そしてエンターテイメントを楽しんだあとに、日々見過ごしてきたものがちょっと気になるようになったりする程度に実生活に影響を与えてくれるような、そんな作品を傑作と呼ぶ。

対して、メッセージ性マシマシの今作はどうだったか?

娯楽性、エンターテイメント性を捨ててメッセージ性を優先した時点で「僕の思う」映画ではない。そう、小学生の頃、道徳の時間にみせられた退屈なお説教ムービーだ。

ロメロは資本主義に毒されて死んだあともモールをさまよう人々をゾンビになぞらえたという。

言われてみればなるほどね、とは思うがそんなことはどうでもいい。だってゾンビはドキドキするしワクワクする最高のエンターテイメントだからだ。面白い映画を見たあとで、パンフレットかなにかで種明かしを知り「なるほどね!」と感心する程度でいいのだ。

メッセージ性があってはいけない、とは思わない。しかしそれはあくまで隠し味に留めておくべきだろう。麺より胡椒のほうが多いラーメンはもはやラーメンではない。それはただの胡椒だ。

次回作では、メッセージ性を脇においた最高のエンターテイメントに振り切ったジョーダンピールを見てみたい。

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