バーバリアン【2022年】騙される快感。強烈なキャラクター達を使って監督が仕掛けた数々の罠。

映画

評価・・・85点

あらすじ

就職活動でデトロイトにやってきた女。予約した民泊はまさかのダブルブッキング。彼女の不運はそれだけではなかった。この家に隠された秘密とは。。。

監督:ザック・クレッガー

キャスト

  • ジョージナ・キャンベル
  • ビル・スカルスガルド
  • ジャスティン・ロング
  • マシュー・デイヴィス
  • リチャード・ブレイク

感想(※以下、ネタバレあり)

人を騙すのはよくない。。。小学生の頃から、いや幼稚園の頃から大人たちに口酸っぱく言われた。そして、汚い大人になったいまも「嘘も方便」と小さな嘘をつくたびに心が痛む今日このごろ。

ところが、そんな善良な僕でも、ことエンタメについては、どんどん騙してくれ!僕をあっと言わしてくれ!というタイプです。

今回紹介するのはそんな映画。

この部分だけで、興味を持った方は、このブログを閉じて、いますぐバーバリアンを視聴して欲しい。

いきなり騙されても困るなーという慎重な方、内容を熟知してから見るかどうか決めたいのだ、というコスパ重視な方は、続きをご覧いただきたいと思います。

タイトルコールのタイミングがよい!

雨の夜。車からスーツケースを引きずった女性が出てくる。民泊らしき家の鍵がない!仲介業者に電話しても当然営業外で通じない!さあ困った、どうしよう、とその時、誰もいないはずの部屋の明かりがついた。

説明口調のあり得ないセリフもなく、ダラダラした回想シーンもなく、絵と演技だけで舞台設定を見せてくれる、こんなタイプの映画は大好きだ。

そして、部屋からは若い男が出てくる。どうもダブルブッキングのようだ。さあ困ったぞ!外は雨だ。真っ暗だ。親切な男は申し出る。「寒いでしょ、まず中に入ってね」と。

えっと…まずくないか?でも外は真っ暗だし、いい人そうだし…えっと…まずは状況を確認することが先決だし…とりあえず中へ。と恐る恐る部屋に入る。

当然、僕ら観客は思う。バカか!入るな!そいつは殺人鬼かなんかだぞ!入るな!

その思いと同時に映画タイトルがおもむろに現れる。

この境界を超えたら、悪いことが起こるという、その境界にタイトルが現れる。

BARBARIAN

最高です。

テンポがよい!

この映画はいくつかのパートに分かれている。就活女のパート、ダメ男のパート、そして就活女とダメ男が合流してからのパート、そして謎の男フランクのパートの4パートだ。

それらをまったく雰囲気もトーンも異なるかたちで切り替えることで、まったく違った映画を見ているかような印象をあたえる。そのような演出にするとオムニバスのような、ぶつ切れ映画になる危険があるのだが、今作はそのリスクをうまく乗り越えて、常にフレッシュな気持ちで映画を楽しめるから不思議だ。

冒頭からしばらくはダブルブッキングを食らったこの就活女を中心に話が進む。基本的に登場人物は就活女と怪しげなイケメン君だ。途中、恋愛モードっぽいムードもあり、うわでた、いつものパターンだ、死亡フラグだ。。。と思わせておいて、特にそこから深い関係にもならずにテンポよく夜があける。

さあ朝だ!と表にでると、そこは実はゴーストタウンだった!というまさかの展開。

就活女の揺さぶられる感情そのままにカメラが朽ちた街の風景を切り取っていく。観客の感情も映像により揺さぶられる。就活女と観客の感情がピタッと一致する瞬間だ。このゾーンに入ったならばあとはジェットコースターに乗ったかのごとく映画に身を任せればいい。

なんだかんだあって、就活女が民泊の地下室にある隠れ扉をみつける。扉のその奥には小部屋があり、そこにあるのは薄汚れたベッド、バケツ、そして三脚付きにセットされたビデオカメラだ。確実に変態の部屋だ。わかりやすいタイプの変態の部屋だ。

就活女と同じく、我々もこう思うはずだ。

やばいよ、やばいよ。。。。

突然、画面はガラリと変わり、先程の女性とはまったく別のタイプのダメ男が登場。

映画冒頭で就活女が車で登場したのと同じように、このダメ男も車で登場する。このあたりも計算されていて非常に小気味がよい。こいつのダメ男ぶりについてもクドい説明が一切なく、絵と演技でダメっぷりとそれが原因で苦境に落ちていることをきちっと観客にわからせるところは見事だ。

就活女のパートをものすごく盛り上がった最高のタイミングで打ち切って、ダメ男のパートにバチッと切り替えることで、「えっ?えっ?なになに?どうなったの?就活女どうなったの?」と、ここでも観客の感情を揺さぶる効果を得ている。

また就活女のパートが終始不穏な雰囲気であったが、ダメ男のパートはなんとも軽薄な雰囲気で違う映画を見ているかのような錯覚を与えてくれる。

この映画どうなるんだろ・・・とおもったところで、実はダメ男は民泊の大家さん。ここで就活女とつながってくる。

このようにパートを切り替えたり、意図的に違うトーンにしたり、観客の目線を変えることは、観客を飽きさせないという効果があると同時に、いろいろな視点で物語を見せることで深みを与える効果がある。邦画でよくある俳優にセリフで状況をながながと説明させるという愚行と正反対の、正攻法のやり方だ。

巧妙に仕掛けられたミスリードの数々

  • ダブルブッキング、やけに親切なイケメン、外は雨、夜も遅い、体も疲れてる、仕方ないから一晩だけ相部屋で我慢するか。。。これ確実に死亡フラグ!さあ、惨殺の始まりだ!→でも、イケメンはいい奴だった。
  • イケメンと就活女は身の上話をはじめる。なんかいい感じ。恋バナ、ワイン、二人だけ。。。このパターンは死亡フラグ!さあ、惨殺の始まりだ!→やっぱ、イケメンはいい奴だった。
  • 不気味な地下室にある隠れ部屋。そこには汚いベッド、汚物を入れるバケツ、ビデオカメラ。どう考えても変態部屋だ。イケメンはいい奴と思わせてからの大逆転の変態野郎だったのだ!さあ、惨殺の始まりだ!→やっぱ、イケメンはいい奴だった。
  • 変態部屋が発見されたにもかかわらず、すぐに逃げずに民泊に留まることを主張するイケメン、あやしい。変態部屋の奥にはまだ秘密の通路があった。そこからイケメンの声がする。あやしい。イケメンがいう、そっちにいっちゃダメだ、こっちに来いと。あやしい。やっぱりコイツが変態野郎だ!さあ、惨殺の始まりだ!→やっぱ、イケメンはいい奴だった。

上記のようなミスリードが映画のなかに散りばめられている。そのたびに感情が揺さぶられる仕掛け。

いったい全体この映画はどんな話なの?誰が悪役なの?と推理しながら見る楽しみもある。

個性あふれるキャラクター

登場人物は少ないながら、魅力的なキャラクターが登場する。まず一般人と就活女を登場させることで、その後に出現する彼らの個性がより際立つ演出となっている。

  • ダメ男:秘密の地下室を見つけたら、一般人(就活女)はギャー、いやだー、逃げたい・・・となる。しかし、そこはダメ男。この地下室は不動産の販売面積に含められるかしら?とルンルンで測量する始末。映画にユーモアと動きを与えてくれる貴重なキャラだ。
  • 謎の男フランク:スーパー店員に「あらオムツがご入用ですか?お子さんはいくつ?」と言われ、「これからだ」と答えるフランク。たったこれだけで、ヤバさ爆発だ。彼ひとりで一本の映画がとれそうだ。
  • おっぱいモロ出し全裸クソババア:本作のメインキャラ。おっぱいモロ出しの全裸のクソババアが襲いかかってくることほど、恐ろしいことはない。まさに漫☆画太郎の世界。さらに剛力。花山薫もびっくりの握力。そして子供好きのツンデレだ。最高のヒロインだ。

まとめ

韓国映画パラサイト(2019年)に対するお茶目なアンサーだ。この映画はパラサイトのようにアカデミー賞は取れないが、僕はこっちの方が断然好きだし、そして何度も見たいと思うのもこっちだ。

小難しい教訓なんてどうでもいいんだよ。ワクワクさせてくれ!ドキドキさせてくれ!びっくりさせてくれ!そんな普通の僕らにぴったりの最高の映画だ。

傑作です。

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