近畿地方のある場所について【2025年】モキュメンタリーとドラマのシームレスな融合は可能なのか?

映画

評価・・・78点

キャッチコピー

  • 私の友人が行方不明になった。
  • これは、あなたを“ある場所”へと誘う、<近畿の>禁忌の物語。

監督:白石晃士

キャスト

  • 菅野美穂(瀬野さん)
  • 赤楚衛二(小沢くん)
  • 夙川アトム(編集長)
  • カイバシラ(ヒトバシラ)
  • のせりん(目黒くん)

感想(※以下、ネタバレあり)

Jホラーがあの頃の輝きをなくしてから随分と経つ。

清水も中田もあの頃のキレが一切見られない凡作を連発している。(忌界島もそれがいる森も思い出すだけで頭痛が…)

そんな中、唯一高い水準で良質な作品を作り続けている孤高の男がいる。

その男は白石晃士という。

彼のモキュメンタリー技法は天才的かつ燻し銀。また、その独特の作風も相まって、もはや「シライシコージ作品」という一大ジャンルといっても差し支えないだろう。大好きだ。(なお、M・ナイト・シャマラン監督の作品も「シャマラン作品」というジャンルとして愛している)

前回鑑賞したのは2024年の「サユリ」。こちらはモキュメンタリーでなく、漫画が原作であった。原作あり、という大きな縛りがありながらも、原作の魅力を損なうことなく、随所にシライシコージらしさが溢れた素晴らしい作品であった。

今作も原作あり作品。さらに主役に菅野美穂を起用というかなりの予算規模。少ない予算で最大の効果をあげるモキュメンタリーが主戦場であった白石監督がどのように料理するのか製作発表からずっと楽しみにしていた。

あえて原作未読(書籍は購入済みだがこの日のために寝かせてある)で公開日翌日の土曜日にシネコンにて鑑賞。「シライシコージ作品」をシネコンで気軽に鑑賞できるのはありがたい。

鬼滅、しんちゃん、星つなぎのエリオ、ジェラシック・ワールドと夏休み映画が目白押しで映画館は子供たちで大盛況。映画を映画館で観る楽しみを覚えて、大人になったらホラーも映画館で観てもらいたいなあと不審者に思われない程度に微笑ましく家族連れを眺めながら、入場。

話題作ということもあり、満員とはいかないまでも8割程度の入りとまずまずであった。

結果としては、、、

本来は90点オーバーの傑作を期待していたのだが、78点という「中の上」的なランクとなった。(ちなみにサユリは90点だ)

下記に78点止まりとなった理由を記載する。

モキュメンタリーとドラマの融合の難しさ

今回は原作ありの映画であるから、モキュメンタリー要素は皆無であろうと思っていたのだが、意に反してモキュメンタリー短編がてんこ盛りでびっくり(当然、歓喜のびっくりだ)。

そして、そのどれもが、極上ときた。

林間学校映像の不気味なお宝映像感。

首吊り屋敷の凸実況の生々しいまでのリアルさ。

怪異の源と思われる伝承をアニメ日本昔話に落とし込む巧みさ。

子供たちの無邪気な遊びに見え隠れする不穏さを際立たせるレポーター能天気さ。

まさに、珠玉のモキュメンタリーの宝石箱である。

失踪した上司の残した膨大な映像資料(それが至高のモキュメンタリー)を繋ぎ合わせながら、なぜ彼は失踪したのか?何を追っていたのか?いったい何が起きているのか?を菅野美穂と小沢くんが真相に迫っていく、いうのが大筋であるが、いかんせんドラマ部分にのれない。

映像資料のパートとそれを検証する菅野美穂と小沢くんのドラマパートに温度差がありすぎて、映像資料パートで高まった気持ちがドラマパートでシュンと萎えてしまう。

菅野美穂も小沢くん(赤楚衛二)も決して悪くない。いや、素晴らしい。しかし、それ以上に映像資料のパート、つまりモキュメンタリー映像の完成度が高く、いや極上すぎて、相対的にドラマ部分の作り物感、嘘っぱち感が際立つ結果となってしまった。

いい演技なんだが。。。
ドラマ(上)とモキュメンタリー(下)を比べるとどうしても。。。

粒度の違う2つをひとつの容れ物に入れても、うまく混ざり合わない。それは、まるで分離してしまったフレンチドレッシングのよう。

いっそのこと、ドラマパートをなくして、菅野美穂と小沢くんとカメラマンの3人構成のコワすぎフォーメーションで、残された映像資料(ファウンドフッテージ)の謎を追いかける全面モキュメンタリー展開にしていたら…とない物ねだりをしてしまうのだ。

マニアックな楽しみ方はしたくない

今作においても、随所にコワすぎ!で確立したコージー印が顔を出す。

シライシコージワールドのファンならば、ゲロで「ふふふ」となり、菅野美穂のビンタで「お!」と声が出て、霊体ミミズで「ニッコリ」するであろう。私もそうだ。

でも、あえていえば、だからと言って、それが全体の評価が決まるわけではない。むしろ、評価には全く影響しないと言って差し支えない。

菅野美穂がバールを持ち出したところで、ニヤニヤするのは、それはコージファンとしての楽しみ方に過ぎず、一般的な映画ファンとしての楽しみ方ではない。いわば内輪ノリだ。

話は変わるが、私は、とんねるずの内輪ネタが大嫌いだった。自分たちの世界だけで通用する内輪の話題を視聴者に強要し、これで笑えないのはお前が仲間じゃないからだという空気を作り出す。天才的な漫才コンビであったダウンタウンも末期は内輪ネタを多用していたことを考えると、内輪ネタとは裸の王様が手を出したくなる禁断の果実なのかもしれない。

閑話休題。

私は白石晃士のファンである前に、ただの映画バカだ。だから安易に内輪ネタにのりたくない。

そして、白石晃士ファンであるが故に、才能を枯らす劇薬である内輪ネタに手を出さないでいただきたいと切望している。

白石晃士という天才が作る唯一無二の作品を来年もその先も映画バカとして純粋に楽しみたいのだ。

原作との比較

映画鑑賞後にさっそく原作を読了。

原作のキモである「何の関連性もなさそうな、バラバラに発生する、不可思議な多くの事案」の部分が完璧に映像化されていることに、驚嘆した。

怪異の源とも言える「まさる」の話は、原作では老人の昔話として語られるのだが、映画の方は不気味な「まんが日本昔ばなし」の1話として構成されている。これが秀逸。短い尺で「まさるの物語」のおどろおどろしさ、哀しさ、そしてなんとも言えない懐かしさが表現されるとともに、ここにアニメを持ってくることで、素晴らしいアクセントにもなっている。

原作と映画の最も大きな相違点はラストだろう。

ここは好みの分かれるところだが、私としては「ノロイ」のテイストで最後まで突き進んでもらいたかった。

まとめ

モキュメンタリー大好きな人も初めての人にも絶対おすすめの一本です。

特にモキュメンタリー初めてな人、モキュメンタリー苦手な人には是非見ていただきたい。

極上のモキュメンタリー映像がここにある。

私は78点と少し辛めの点数をつけたが、あなたはどうだろうか?

観るべき価値ある一本です。

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