評価・・・30点
この映画に共感した者たちを、敵とみなす。
あらすじ
最後にあったのは渋谷の道玄坂。「今度CD持ってくるからね」という言葉を残して、彼女は去っていった。あの頃の「ボクたち」は輝いていた。エモいエモい物語。
監督・キャスト
監督:森 義仁
数多くのMV・CMを撮っている。中島哲也監督と似たような経歴か?本作が監督デビュー作
キャスト
森山未來、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE
感想(※以下、ネタバレあり)
「愚行録」から悪意をすべて取り除き漂白に漂白を重ねて、無味無臭にしてから「秒速5センチメートル」風味で味付けしました・・・的映画。
トレーラーで「今度、CD持ってくるからね」・・・その言葉を最後にボクたちは終わった・・・って来たら、「なるほど、消えた彼女の謎を解くミステリーだな??」と誤解しちゃうよね?おや、和製ゴーン・ガールかしらと思うじゃない?
残念ながら(?)、ミステリーの要素はゼロです。
たしかにミステリーとはどこにも書いてないので勘違いした僕が悪かった。早とちりした僕が悪かった。それは認める。しかし、思ってたのと違ったけど、いい映画だったわーとなるのも、また映画鑑賞の楽しみ。
しかし、この映画は久しぶりに「敵」を見極めるためのリトマス試験紙アイテムであった。
Facebookで元カノを見つけて、おうおう懐かしいのーと過去の出来事を思い出していきながら、結局僕ってなんにもなれなかったんだよね・・・と感傷に浸るというのが大筋。
でも、この主人公って、なんにも持ってない、何者にもなれなかったという割には、最初にできた彼女は伊藤沙織だわ、六本木の天使SUMIREといい関係になるわ、大島優子と結婚寸前までいくわ、仕事にはあぶれず、仕事仲間に恵まれ、なかなかいいマンションに住み、仲間たちと毎晩オカマバーで飲み明かし・・・これって持ってる人の自慢話じゃない?リア充のないものねだりじゃないの?持って持って持ちきれなくて溢れんばかりの状態を、なんにも持ってない(持ってなかった)僕たちに見せてどうするわけ??嫌味か!
この主人公と僕はだいたい同世代だろうと推測されるが、こいつの回想録と僕のあのころは全くリンクしていない。これぽっちも共感できない。自分の「あの頃」を無理やり思い出そうとすると甘酸っぱい思い出なんか何一つ出てこない。
それは僕が格別ひどく悲惨な時代を過ごしてきたわけでなく、多くの人がそうであろうと思う。世代を問わず。
あのときなんであんなこと言っちゃんたんだろ?
もっとうまく話せたらよかったな・・・
オドオドして気持ち悪いって思われてたかな・・・
あのときあの人は僕のこと嫌いだったんだろうな・・・
いまでも憎まれているのかな?
あのとき調子に乗らなければよかったな・・・
あのとき意地悪してきたあいつを殺せばよかったな・・・等々
思い出したくないことばかりが走馬灯のように溢れてくるのが普通じゃないのか?あたま抱えちゃのが普通じゃないのか?
それを「僕も素敵だった」、「あいつも素敵だった」、「みんな素敵だった」って明らかにおかしいだろ。
ゆえに冒頭に書いたように、人間の嫌な部分(といっても多くの人が少ながらず抱えている闇)を過去にさかのぼりながら、丹念に描いたのが「愚行録」であるとすると、おなじく過去をさかのぼるプロットであるが、「すべて輝いていた」で片付けているのが本作である。
「なんだか普通だね」という元カノの言葉(呪い)に自分だけ縛られているという「秒速5センチメートル」的な下敷きがうっすらある。それはいい、それはわかる、そこは共感できる。しかし「すべて輝いていた」の主張が強すぎて、ぼやけてしまっている。
「今度CD持ってくるからね」の言葉を最後に消えた彼女の謎、「なんだか普通だね」という消えた彼女の言葉、これらに囚われ続けた哀れな中年男の物語・・・という主題だったのなら、僕も共感できたのにと残念だ。
長くなった。まとめます。
この作品は「あの頃」僕が敵とみなしていた「あちら側」の奴らの回想録であり、奴らからの挑戦状であり、僕らと奴らを切り分けるボーダーラインである。「あの頃」と変わらず現在進行形でだ。
役者は素晴らしいので最後まで鑑賞することは可能だ。(伊藤沙織もキュートだし、SUMIREも場末の天使のようで美しい)自分がどちら側なのかを確かめるため、ぜひ鑑賞していただきたい。