評価・・・80点
キャッチコピー
-この恐怖、無視できる?
-何が見えても、最後まで無視してください。
-選ぶのは無視か友情か。全力無反応系エンターテイメント
監督:中村義洋
キャスト
- 原菜乃華(ミコ)
- 久間田琳加(ハナ)
- なえなの(ユリア)
- 山下幸輝(会長)
- 滝藤賢一(父)
- 高岡早紀(母)
- 京本大我(善)
感想(ネタバレほぼなし)
あんた、ストライクゾーン狭いね。
Netflixで一緒に観る映画を選んでいる時に妻に言われた言葉だ。
そーか?んなこと、ねーだろ?と反論するも、その一方でなんとなく思い当たる節がある。
ちょっと演技に難のあるイケメン君が出ていると、それだけで敵意剥き出しで「資本主義の犬が!却下だ」と妻を怒鳴り散らす始末。
ジャンルで言えば、ファンタジーものは受け付けない。ロードオブザリングもハリーポッターもナルニア国物語もみんな無理。みんな却下だ。
あと、スターウォーズのE7、8、9などは反吐が出るほど嫌いだ。あ、これはみんな一緒か。
ジャンルとして特に嫌悪感を感じるのは、いわゆる「学園もの」である。
甘酸っぱさのかけらもない、ひどくしょっぱくて暗い青春時代を送ってきた私としては、「学園もの」は当時の行動を思い出して赤面するだけでなく、後悔ばかりが頭をグルグルまわり、翌日までダメージを受け、布団をかぶって大声で「クソが!クソが!クソが!」と叫ばざるを得ない状況を引き起こす。もう50代目前なんですがね、困ったものだ。
さらに、10代の女子がメインの「学園もの」はさらに鬼門。あの年代特有の無意識の残酷さが透けて見えて、身震いするほどだ。50歳のジジイが10代の少女の所業を見て、怯えるのは我ながら滑稽を通り越し狂気すら感じる。
そんな心の狭いストライクゾーンの狭い私が今回手を出したのが「見える子ちゃん」である。
学園もの、10代の少女もの、さらにイケメン男子も出るらしい…こりゃ却下、却下、却下のトリプルコンボ案件だ。
さらにフライヤーがくそダセエ。菊池桃子の「パンツの穴」くらいダセエ。うわ、暗い青春時代のフラッシュバックがまた…


当然、却下案件としていたが、大好きな「残穢」の監督である中村義洋監督の久しぶりのホラー作品ということ、さらに「ドールハウス」を観て大満足で、しばらく駄作を観てもお釣りが来るなと気持ちが大きくなっていたこともあった。
これが、これが、冒険して大正解の大当たりであった。点数としては、80点(ちなみにドールハウスは89点)であるが、学園ものは即却下の私がつけた辛口の点数であるため、一般の方ならば、90点近くの高得点が取れるはずだ。
良かった点と微妙だった点は次の通り。
良かった点
トレイラーで表現されていた「女子高生なり!」といったキャピキャピ感が存外少なく、私のような青春トラウマを抱えるものでも抵抗感なく鑑賞できる。
また、80年代のアイドル映画(スニーカーぶる〜すやパンツの穴)のようなダサダサフライヤーからは想像もつかない演技力を若い演者たちが見せてくれる。

特にミコ役を演じた原菜乃華が素晴らしい。
ホラー映画に必須の「目ん玉ひん剥き」もわざとらしさなくこなしたかと思えば、女子高生の微笑ましい日常の姿をコミカルに演じ、その緩急の塩梅が絶妙だ。往々にして緩急のメリハリをはっきりさせることは微妙にダサい仕上がりになるものだが、彼女は緩と急をシームレスに行ったり来たりすることにより、誰もが彼女から目が離せなくなる。きっとあなたの目もミコを追いかけ、彼女を応援したくなるはずだ。


彼女の演技に触れられただけでも大満足。ぜひ次回作もチェックしたい。
出番は少ないが、クラスメイトを演じる多くの役者陣も上手い。次の仕事に繋げるべく必死に爪痕を残そうとする悪あがきやキャピキャピ感を出そうと頑張りすぎてる感がなく、落ち着いた地に足のついた演技を心がけており、安心して映画に没頭することができた。

よく練られた脚本、若い演者達の頑張り、中村監督の演出が高度に融合し、非常に質の高いものに、大人から子供まで、青春真っ只中の人もそうでない人も、甘酸っぱい青春の思い出がある人もトラウマを抱えている人も皆が楽しめる素晴らしい作品となっている。
微妙な点
ほぼ完璧な仕上がりだが、難をいえば、ホラー好きにとってはホラー演出が物足りない。恐怖が皆無だ。多少なりともジャンプスケアがあっても良かったのではないか?また、霊の表現もかなりマイルドで薄気味悪さが皆無。
ホラー演出が少なめ、霊の表現がマイルドであるがために、今作のキャッチコピーである「なにが見えても無視してください」が実感を持って受け止められない。ガン見しようが無視しようが大して差異がねーなと腹落ちしない。霊に気づくことで、ミコが空前絶後の恐怖を味わい、だから断固として無視することに決めた、という展開があっても良かったのではないか?
ただ、ホラー色を強めれば強めるほど、「ちょっぴり怖くてちょっぴり笑えて、とっても泣ける誰でも楽しめる青春映画」からかけ離れてしまうので、これがベストのバランスだと理解している。ホラー好きの私のワガママだと思って聞き流していただいてけっこうだ。
まとめ
この映画は公開当初は全く眼中になかっためっけもんの拾い物であった。
家族、友情、笑い、驚き、悲しみ、恐怖、謎、全てが絶妙なバランスで構築された素晴らしい作品。

妻よ、私のストライクゾーンが広がったぞ。