評価・・・82点
あらすじ
親を亡くしたキャディーに与えられたAI人形ミーガン。ミーガンの一途な愛が暴走する。
監督:ジェラードジョン・ストーン
キャスト
- アリソン・ウィリアムズ(ジェンマ:開発者)
- ヴァイオレッド・マッグロウ(キャディー:ミーガンのユーザー)
感想(※以下、ネタバレあり)
「ソウ」のジェームズ・ワンと「パラノーマル・アクティビティ」のジェイソン・ブラムのタッグによるホラーと聞いては見逃す手はない。
公開初日に劇場を訪れたところ、ほぼほぼ満員に近い客入り。さすがの人気だ。
内容は、「人形が人間を襲う」、「AIが暴走する」、というありがちなストーリーであるため、
「またかよ、どっかで聞いた話だなー、あれでしょ人形がナイフを持って襲いかかってくるんでしょ」
とか、
「じゃああれだ、AIが暴走して、ジャッジメント・デイが訪れるんでしょ」
と警戒されるかもしれないが、ご安心ください。それはまったくの杞憂だ。
スマートスピーカーが身近なものになり、生成AIをリアルに使うこの時代だからこそ、今回のストーリーは、これまでの人形怖い系やAI暴走系と比べて、よりリアルに感じられる作りとなっている。
今作は大きく分けて「ミーガンの変化」、「創造者の苦悩」、「ミーガンを使うものの変化」の3つの軸で物語が進行する。
ミーガンの変化
今作はほとんど血しぶきらしい血しぶきは皆無だ。お子様でも見られる作品となっている。しかし、怖くないのか?というと非常に怖い。いや不気味だ。
特にミーガンの造形が素晴らしい。ロボットの表情は人間に似せれば似せるほど、我々はそれに愛着を抱くのだが、ある一定のラインを超えると一気に「なにこれ、不気味!」となる。それのことを「不気味の谷」という。
ミーガンはこの「不気味の谷」の谷の奥底のような造形であるため、ひたすら不気味なのだ。
映画の登場人物がミーガンを見て「ヒィ!」と驚く場面があるのだが、観客はみなその登場人物に共感したことだろう。その証拠にその場面で少なくない笑いが起きていた。
AI人形のミーガンが学習するにつれて、どんどん望まぬ方向に変化していくのだが、変化した狂ったミーガンよりも私は学習中のミーガンにゾッとした。
状況をじっと観察しながら、良からぬ解析結果をはじき出しているような雰囲気がビンビンと感じられ、非常に不気味。
むしろ終盤の怒った顔のミーガンなどはこれっぽっちも怖くなかった。
とかく注目されるミーガンダンスのような「動」のミーガンでなく、解析中の「静」のミーガンを堪能して欲しい。
創造者の苦悩
ミーガンの開発者であるジェンマとそのチームメイトのサクセスストーリーも見逃せない。
上司からの望まぬ指示、やりたいことと求められることの違いからくる悩み等、我々サラリーマンの全部が抱える苦悩をジェンマは抱えている。
それをミーガン開発で起死回生の逆転劇を繰り広げるのが痛快だ。
特に、会社幹部に対するプレゼンが大成功を収めるところなど、胸熱だ。私など「ミーガン頑張れ!」、「ミーガンいいぞ!」と応援したくらいだ。
そんなことから、ジェンマが狂いはじめたミーガンについて、「やめやめ!開発やめ!」と即決したのは、ちょっと納得いかず違和感を感じた。
もっともそこは主要テーマではないので、深く描くことを諦めて、ストーリーにスピード感をもたらすことを優先したのかもしれない。
ミーガンを使うものの変化
上述のしたようにミーガンが思わぬ方向に学習が進み、狂っていくのだが、同時にそれに影響を受けたユーザーであるキャディーにも狂気の影が伝染し始める。
ミーガンにより影響を受けたキャディーが悪い方に変化し、それによりミーガンが悪い方に学習し。。。というループに陥っていく。
二人して狂っていくという共依存関係がここで描かれる。ミーガンが狂っていくことよりも、キャディーが狂っていくことのほうが正直恐ろしいのだ。
ミーガンは「不気味」だが、キャディーの変化は「恐怖」だ。
最後はキャディーが覚醒しミーガンとの離別と対決を選ぶのだが、私はむしろそこに恐怖を感じた。
これまで相思相愛である意味純粋、ある意味純朴なミーガンをためらいなくぶっ殺すことを選択したキャディーに対して、薄ら寒い思いを感じた。
キャディーってもしかしてサイコパスなんじゃなかろうか?こいつがユーザーだからミーガンも狂っちまったんじゃないか?となんだかミーガンが哀れに感じてしまった。
散々世話になったドラえもんをぶち壊すのび太ってありえない。友達だったコロ助の頭部をぶっ刺すキテレツなんて見たくない。
もしかしたら、ドラえもんの国である日本のロボットはトモダチの日本人とロボットは使役する道具にすぎないと考える欧米人との感覚的な違いかもしれない。
いずれにせよ、キャディー怖えーと思わせるヴァイオレット・マッグロウの確かな演技力も堪能して欲しい。
まとめ
search/#サーチ2もそうだが、今作も「いまこの時代だからこそ、ぜひ見るべき映画」といえる。上述したように、生成AIの普及、スマートスピーカーの普及、それらを支える技術がおとぎ話でなく現実に存在している今だからこそ、これらの映画をより楽しめる。このタイミングを逃す手はない。
もしかしたら、数年後にミーガンを見たら「ありえねー笑」となるかもしれない。
ブレイドランナーのような普遍性はないかもしれないが、今の時代に見るべき傑作だ。