評価・・・85点
非モテ厨ニ病患者はすぐに見るべし!
あらすじ
ぱっとしない毎日を送る僕がひょんなことから始めた銭湯のバイト。実はその銭湯には裏の顔があった。夜は銭湯、真夜中は殺人請負現場。僕の運命はいかに・・・
監督:田中征爾
キャスト
皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真
感想(※以下、ネタバレあり)
物語の構成は非常に単純で、東大はでたけれどぱっとしない人生を送るカズヒコが、ちょっとしたキッカケではじめた銭湯でのバイト。その銭湯はただの銭湯でなく、ヤクザからの殺人依頼を実行する殺害現場だった。単調な生活から一気に非現実的な世界に放り込まれるなかで、彼の人生も動きだす・・・という「あるキッカケで一歩踏み出した男」の物語である。
登場人物も非常にコンパクトで、基本的には主人公のカズヒコ、銭湯のオーナーの東さん、同僚のマツモト、ヤクザの田中、そこにカズヒコの彼女ユリがからむという設定。
彼ら役者陣の演技が非常に秀逸。田中監督とカズヒコ役皆川暢二、マツモト役磯崎義知の3人で結成された映画製作チームOne Gooseを中心に製作されており、チームワーク抜群な感じがでている。
特にいい意味で驚きなのはアクション。この手の映画で残念になりがちな部分だが、リアルかつ迫力のあるアクション。マツモトが先輩の小寺くんと一緒に初仕事をおこなう際のシーンが見もの。それまでの流れからマツモトには無理だろ、マツモト背伸びしすぎだろ、ドジ踏むんじゃないかな、小野寺くんに迷惑かけるんじゃないかな、という観客の不安を一掃する迫力の演技。全国の厨二病患者の気持ちを鷲掴みにするシーンだ。
ユリを演じる吉田芽吹もチャーミングでよい。とくに僕ら非モテが「理想」とする彼女像を合格点を超えて表現。一例をあげると(セリフは適当です)、
ユリ「今度の同窓会どうするの?」
カズヒコ「行くつもりないけど・・・」
ユリ「えー!同窓会でゆっくり話せると思ったのに・・・」
カズヒコ「じゃ、行こうかな・・・」
ユリ「やった♡」
こんなん非モテが言われたらいっぱつで撃ち抜かれるだろ。製作陣はよく理解している!これ以外にも非モテが思う理想の彼女的なシーンがいくつもあるので、世の女性達も勉強になるだろう(ならんか)。カズヒコがユリと別れるシーンはつらい、つらすぎる・・・
また銭湯オーナー東さん、ヤクザの田中もいい味を出している。カズヒコとマツモトと対比する形で周りの大人達が表現されている。ヤクザの田中は自己中心的に彼らから搾取する老害、銭湯オーナー東さんはいい人ぶって結局最後は裏切る老害。彼らの支配から脱することがひとつのテーマにもなっている。
殺しを生業とする暗殺者、支配からの脱出、非モテの想像する理想の彼女、家族、友情、成長と様々なテーマがぎっしり。消化不良になりがちなところだが、それらを見事な演技で表現。
特に僕が好きなシーンは田中を殺しに行く前にカズヒコとマツモトが居酒屋で語り合うシーン。混じり合うはずのなかった二人が意気投合し、命をかけた大一番の前に、何気ない日常会話をするこのシーンが熱くて好きだ。
ラストは支配から脱することのできた、カズヒコ、マツモト、アンジェラの三人がお酒を酌み交わす。ここでマツモトがワンカップを飲むシーンが泣ける。ああ、やっと殺し屋から足を洗えたんだな、小野寺くんができなかったことがやっとできたんだな。言葉で多くを語られる以上に一瞬映るワンカップが多くを語っていた。
あれ、ユリはどうしたんだろ?と思った瞬間にカメラが切り替わり、座に加わるユリが写る。非常にほっこり。
「人生には何度か一生これが続けばいいのにっていう瞬間が訪れる」というカズヒコの心の声で終わるのだが、いいハッピーエンドだなと思うと同時に、この瞬間は次の瞬間にはもろくも崩れ去ったりするんだろうな、例えば死んだ田中の組織のものが復讐に来たりとか・・・といったことも想像され、人によっていろいろな受け止め方ができる素晴らしい締め方だった。
製作陣の今後の作品が楽しみだ。おすすめ映画だ