Mr.ノーバディ【2021年】最高のナーメテータ映画。全世界のおじさん達よ、ろくでもない明日のために、これを観て頑張ろう!

映画

評価・・・90点

あらすじ

砂を噛むような日々を過ごすハッチ。情けない親父と息子にも疎まれ、勤め先の同僚にも馬鹿にされ、なんだか最近、妻もそっけない。そんなハッチには人には話せない危険な過去があった・・・

監督:イリヤ・ナイシュラー

キャスト

ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、クリストファー・ロイド、アレクセイ・セレブリャコフ

感想(※以下、ネタバレあり)

ナーメテーターというジャンルをご存じだろうか?ターミネーターでなく、ナーメテーターだ。

僕の大好きなジャンルのひとつだ。

ベトナム帰りの汚い浮浪者だと舐めてたら、実は戦場の英雄だった!!

犬を愛する冴えない孤独なおっさんだと舐めてたら、実は引退した伝説の殺し屋だった!!

ホームセンターに勤める普通の優しいおじさんだと舐めてたら、実はかつての凄腕CIAエージェントだった!!

そう、「舐めてた」相手が「実は」……だった!というのが核となっている映画の一ジャンルである。

酔っ払いだとおもって舐めてた相手が、実は酔拳という伝説のカンフーの使い手だった!というのはジャッキーチェンの「ドランクモンキー酔拳」だし、娘に好かれようと必死のダメ親父かと思って舐めてたら、実は元秘密工作員だったというのは、リーアムニーソンの「96時間」だ。

思ったよりも多くの有名な映画が、このジャンルに名を連ねている。これほど多くの作品が作られるのは、それだけ根強い需要があるからである。

特に、ある一定層に。

そう、我ら厨二病患者である。

そんな我らに、とっておきの映画がやってきた!それが今回取り上げる「Mr.ノーバディ」だ。

ストーリーは単純明快で、家族にも疎まれ、近所の人からもバカにされ、判で押したような毎日を送るしがないサラリーマンのおじさんが、実は、軍からもトップシークレット扱いされる凄腕の始末屋だった!という正統的ナーメテーター映画だ。

ダメで平凡な毎日をサクッと描き、既にナーメテーター映画だとわかっている観客を待ってましたと物語の引き込む仕掛け。

羊の皮をかぶった狼が本性をむく最初のシーンであるバスの中でのアクションが最高。

相手のクズどもが、ヒャッホー!という感じで登場するのだが、よくわかってんなこの監督!とおひねりを投げたくなる気分。当然、クズなので正々堂々でなく、ナイフを使うわ、銃を使うわでやりたい放題だ。それに対して、おじさんは華麗に敵をやっつけるわけでなく、時に相手の攻撃を食らいながら、ボロボロになりながら敵を倒していくのだが、このシーンが非常によい。現役を離れて長い主人公が戦いの中でかつての自分を取り戻していく過程を、アクションなかでリアルに表現されている。

最近観たMCUのシャン・チーも映画序盤でバス内でのアクションシーンがあった。そちらのほうが当然金もかかっているし、若い分だけ動きも派手なのだが、まったく心に響かなかった。おじさんの勝ちだ。エモーショナルだ。バンザイ!

そういえば、シャン・チーも「父と子の関係」というものがテーマのひとつになっていたが、こちらMr.ノーバディも「父と子の関係」がテーマになっている。

息子に失望される自分、ボケてしまった老いた父、失われていく父性、妻とマンネリな関係、それら僕ら「情けない」おじさん世代が抱える問題をこの映画はぶっ飛ばしてくれる。

くだらねえ説教でなく、くだらねえ正義感でなく、すべての問題を暴力でぶっ飛ばす!最高だ。

この手の映画は敵役が強大でないと中途半端になってしまうのだが、その点、今回の敵であるロシアン・マフィアのユリアンがイカしてる。

乱暴な運転でクラブに乗り付けて、車道をノッシノッシと車が来ることにも意にも介さず大股で横切る。そして、クラブで人々の嬌声を浴びながら、ヤクを決めながら、ステージでノリノリのダンス。次のシーンでは残虐な殺人だ。。合法非合法関係ねえ。やりたいようにやる、やりたいときにやる。殺したいときに殺す、だ。

このユリアン軍団とおじさん軍団の大乱闘になるのだが、ほんとうに気持ちがいいのだ。水を得た魚のように戦うおじさん達が気持ちよさそうで、観ている僕も気持ちがいい。

牙を隠して平穏に暮らすことを選んだ男が、自分自身を隠して生きることを選んだ男が、壊れかけた家族という問題にさらされ、自暴自棄になりながら、あくまで自分のために自分を取り戻す。

誰のためでもない、自分自身のために自分を取り戻すのだ。

本当の俺はこんなもんじゃないと日々思いながら、日々抑圧されながら生きている僕たちおじさん世代に送るおとぎ話のような映画である。ろくでもない明日を生きるための観るレッドブルだ。

もう一度いう、最高だ。

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