評価・・・90点
キャッチコピー
- 人間が、人間ではなくなる。
- 時は何も癒さなかった
監督:ダニー・ボイル
キャスト
- アルフィー・ウィリアムズ(スパイク)
- アーロン・テイラー=ジョンソン(父)
- ジョディ・カマー(母)
- レイフ・ファインズ(ケルソン先生)
- ジャック・オコンネル(ジミー)
感想(※以下、ネタバレあり)
「今度のゾンビは走るらしいぞ!」
ホラー仲間のオーウチくんが興奮して電話をかけてきたのを思い出す。
私はまだ20代だった。
その映画「28日後…」から受けた衝撃がいまだに身体の芯に残っている。
「走るゾンビ」は確かに目新しいが、ポイントはそこでなく、この映画全体が醸し出す「疾走感」がたまらなかった。「走るゾンビ」のアイデアが先にあったわけでなく、監督は「疾走感」を出すために、あえてゾンビを「走らせた」のだろうと若い私たちは語り合ったものだ。
あれから20年以上が経った。
オーウチくんは元気だろうか?まだホラーを観てるだろうか?ハードコアをまだ聴いてるだろうか?
もう彼とは映画の感想を語り合うことはできないが、代わりに、この最高の続編である「28年後…」について、下記に記す。
オーウチくんに届け。
ボイル節、健在!
ロングショットから極端なクローズアップ。
まるでザッピングしているかのような細かなカット割。
手ブレ効果。
洒落た音楽とそれに確実に同期させたカメラワーク。
これらがいわゆるボイル節といわれる外見的な特徴であろう。
今作でも、随所でボイル節を堪能できる。
まるで自分がそこにいて、それを見ているかのような極端なアップと観客の視線の動きのようなカメラワークにより物語に没頭させられ、素早く切り替わるショット割により観客は気を抜く暇を与えられない。さらにそこに、陰鬱なブリティッシュロックが鳴り響き、胃の奥底にズシンと嫌な重さを感じる。
冒頭にて差し込まれた「ブーツ!、ブーツ!、ブーツ!、アップanダウン、アゲイン」という繰り返しの朗読をのせた古い映像がまた不気味。
感染爆発から28年経ったが、文明は回復するどころか戦時中のような価値観まで後退しており、人々は決して幸せではないというのをクドクドとした説明を省き、この映像と音と朗読で暗示することで、観客は一気にのめり込む。
また、文明が退化し、戦闘の中心が弓である世界を設定したことにより、襲いかかる感染者、弓を引く主人公、弓が当たり吹っ飛ぶ感染者とそれぞれのシーンで絶妙な「タメ」があり、「タメ」の後にはスピーディーなショット割とクローズドショットで躍動感満載のシーンが続き非常に中毒性がある。この連続で物語が進むので、観客は前のめりにならざるを得ない。
特に、弓でぶっ飛んだ感染者のショットは色々な角度から取られた映像が複合的に組み合わされている。公式によると、20台のiPhoneを並べて撮影されているようだ(ダニーボイルは貧者のバレットタイムと呼称しているそうだ)。

28日後…では家庭用ビデオカメラを使用し、28年後…ではiPhoneを使用するというダニーボイルの革新性も楽しみのひとつだ。

静と動の恐怖表現
今回は弓を主力武器とせざるを得ない退化した世界が舞台だ。
それにより、遠すぎると当たらない、中間距離だと外すと2撃目が間に合わずやられる、近すぎると当たるが2体目に襲い掛かられてやられるという、マシンガンでは得られない物凄い緊張感を得ることに成功している。

さらにこの緊張感にプラスして、感染者が主人公に気付く、主人公も感染者に気付く、一瞬お互いに見合う、その一瞬の間(タメ)からの感染者の全力疾走!!という静と動の恐怖表現が非常に効果的に使われており、これが怖くて気持ちいい。モッシュをあおるハードコアの「タメ」にも似た衝動と高揚を感じられる。


父との旅と母との旅
安全な孤島から感染者がウヨウヨいる本土に渡る旅を少年は本作で3度経験する。この3度の旅がそれぞれメタファーをもって描かれている。
まずは父との旅。旅の前に少年は大好きなヒーローフィギュアを持っていくのを諦め、そっとテーブルに戻す。大人になることへの決意がうまく表現されている。父との旅では、「殺すことが生きること」を学ぶ。強い男でなければ生き残れないと刷り込まれるのだ。
そして旅から戻った少年は父の欺瞞と裏切りを知り、父との離別を選択する。
次は母との旅だ。この旅のテーマは「死を受け入れること」だ。そして、新たな生命に対する母性を目の当たりにする。
少年はヒーローフィギュアを置き去りにし、父と別れ母と別れ、骸骨を塔に置き、大人になった。
そして、最後は一人で孤独に旅することを選択する。
続編は?
ラスト5分の展開にみな驚いたことだろう。
生と死と成長を丁寧に描いてきた展開から、一転、ポップでメタルなアンチクライストなイカれた集団が登場。
映画冒頭の感染者に襲われたジミー少年、中盤で天井から吊り下げられた感染者の体に刻まれたジミーの文字、壁に書かれたジミーの落書き。
あの教会で震えていた少年は長じてアンチクライストになり、戦隊ヒーローよろしくポップな隊員を率いるボスとして登場。
彼は精神的に大人になりつつあるスパイクと対照的に少年性を残したまま大人になったかのようだ。
さあ、この男とスパイクとどのように関わっていくのか?という
今作、28年後…は三部作になるという。
ヒーローフィギュアを手放した少年が出会ったジミーは少年の新たなヒーローとなるのか、あるいは家族を失った少年の新たな家族となるのか、それともコインの裏表の存在として敵対するのか、興味は尽きない。
そこに感染者の娘はどのように関わってくるのか?
早く続きが観たい。彼らに早く会いたい。次作の公開を楽しみに、この過酷な労働の日々をやり過ごすとしよう。
まとめ
2025年上半期のベストだ。
ぜひ映画館の大画面で爆音で堪能して欲しい。とぶこと間違いなしだ。
もう一度いう、2025年上期ベストだ。