じわりじわりと効いている。ボディブローのように効いている。一発でノックアウトされるわけではないが、確実に体力が奪われている。最終ラウンドまで立っていられるだろうか?
最初は大したことねーな、とたかを括っていたが、1ヶ月が経ち、じわりじわりと効いてきた。
そう、消費税のことである。
増税当初は「2%だから、まあいいか、大事に使ってくれるならいいですよ」と気のいい御隠居さんみたいな気持ちでいたが、1ヶ月が過ぎた頃、財布が泣き始めた。
寒いよ、寒いよと泣いている。
いつもの調子で駅前のガード下で一杯ひっかけ、つけ麺なんかを気にせずに食べていたら給料日前に異変に気がついた。
僕ら貧乏人の総決算は毎月の給料日数日前の財布の厚みにより計られる。この時期に財布に諭吉が入っていることはまずない。数枚の野口。その野口の数が明らかに少ない。明らかに足りない。
冗談抜きで落としたのか?盗まれたのか?騙されたのか?と冷や汗をかいた次第。
なんのことはない、日々の細かな散財に潜む増税の影響が野口を直撃したのである。
よって増税2ヶ月目の今月は節約することに決めた。まずは消費増税の片棒を担ぎ、まんまと軽減税率を手に入れた新聞をパージだ。
日経を読まずんば社会人にあらず、なんていう昭和からの教えを引きずっている場合でもなかろう、時は令和だよバカヤロウ、こちとら老眼入ってよく見えねえんだよバカヤロウ、難しい専門用語が多すぎて、そもそもほとんど読んでねえんだよバカヤロウ、ということで日経新聞をやめた。
4,900円の節約。ザマアミロだ。
僕の場合は日経新聞がターゲットであったが、週に一度のプリンを二週間に一度にしたり、月に一度の映画はレイトショーのみにしたりと様々であろう。そうすると、新聞屋やプリン屋や映画館の収入が減り、そのことでそれらに勤めている従業員のボーナスが減り、その従業員がボーナスで買うはずであったプリンが売れず、プリン屋の従業員の給与が上がらず、節約のため新聞をやめ、新聞屋の従業員が…あれ?なんかこんなループ、前にもあったんじゃなかったっけ?まあいいや。
とにかく日経新聞を辞めた。
しかし、もし「お前、新聞読んでる?」と上司に聞かれたら、明るく「いいえ!読んでませんけど、なにか?」と言えるほど、肝が太くないので、「聴く日経」というサービスに加入することにした。
これは、日経新聞の内容をかいつまんで読み聞かせてくれるという貧乏な老眼気味の社畜の僕にはぴったりのサービスである。
これならば読んでいるとはいえないにしても、なにかの話題の際に「ああ、日経に載ってましたね」と言えるというものだ。
ちなみに月550円である。
これでしばらくは凌げるのではないかとほっとしている。
「ゴマの油と百姓は絞れば絞るほど出るぞよ」と江戸時代の殿様が言ったそうだが、霞ヶ関のお偉い方々はさらに巧みに「絞れば絞るほど出るぞよ、しかし少しずつ絞るぞよ、ほっほっほ」と僕らが痛みに慣れてきた頃にまた増税するのだろう。
今日も満員電車のなかイヤホンの音漏れを気にしながら「聴く日経」をきいている。
日経が言うには、香港では相変わらず民主化デモが続いており、治るどころか激化の一途を辿っているとのこと。
消費税が2%増税でなく、一気に10%の増税だったら、ヤケッパチに振り切れて、僕もビール瓶にガソリンを詰めるだろう。絞られすぎてスカスカになったゴマであっても最後の火種になることはできるだろう。
闘う理由を持ち、闘うきっかけを得た香港の人々を少しだけ羨ましく思ってしまった。