評価・・・70点
突っ込みたいところが多々あるが、観る価値あり。
あらすじ
慎ましく幸せな生活を送る僕。あるとき押入れの奥から古びたカセットテープが・・・そこには幼い僕の声。なんだコレは!?これってもしかしてあの事件に関係してる?どうなっちゃうの僕?見なかったことにはできない。聴かなかったことにはできない。僕は、自分の知らない自分の過去に向き合うことを決める。
監督・キャスト
監督:土井裕泰
TVドラマが主戦場。TBSドラマに多く関わっている(有名なのは「逃げ恥」や「重版出来!」)。
キャスト
小栗旬、星野源ほか
感想(※以下、ネタバレあり)
近頃観る洋画はことごとく外れ。げんなりな週末を連続で過ごしていた。
そんなときにダメ元で邦画「愚行録」を観たところ、これが成功!
観終わったあとに別のげんなり感があるのだが、それもまた心地よい。その余韻が残っていたので、似たようなテイストかな?と本作に手を伸ばした。
結果としては愚行録とはまったく違うテイストの正統派ミステリー。
2時間21分という長尺ながら、飽きることなく楽しめた。
グリコ森永事件を題材に、犯人側にいた子供たちとその母親たちが事件により、どのように人生が変わり、どのように生きて来たのかにスポットをあて、昭和から平成、そして令和へと移りゆく時代背景とともに丁寧に描いている。
また脇を固める俳優陣の演技も渋く飽きさせない。
残念なのは、小栗旬。
まったくもって薄っぺらい。社会部の記者であったが、いろいろ葛藤があり記者としての生き様をあきらめて、給料さえもらえらばいいやとサラリーマン記者に自ら甘んじているという役なのだが、その葛藤がひとつも演技で表現されておらず、すべてセリフで説明する始末。
また薄っぺらい記事を量産するだけのサラリーマン記者がかつての自分を取り戻していく・・・という燃えるポイントもうまく表現できておらず、乗れなかった。
なんでそんなに頑張ることにしたの?と観客置いてけぼり。
(愚行録の妻夫木聡が同じく記者役であったのでどうしても比較してしまう)
それでもなんとか2時間半近い長尺を飽きずに持たせられたのは、小栗旬は主役ではあるものの物語をすすめるための狂言回し的役回りであり、いわばストーリー展開上は脇役であったことが功を奏したかたちだ。
また、脇を固める俳優の演技が見事であることがあげられる。
特に星野源の対比としての総一朗役「宇野祥平」が抜群の存在感。
終盤に差し掛かり、不幸のどん底を生きてきた総一朗がおなじような境遇にあった(しかし小さな幸せを掴んでいる)星野源に「あなたはどんな人生やったんですか?」と聞く名シーンがある。
ここの星野源の表情がすばらしい。
同じような境遇にありながら小さいながらも幸せを掴んでしまって申し訳ないという気持ちと自分もほんの少し運命が違っていたら総一朗のような人生になっていたかもしれないという恐怖感がないまぜとなった表情を浮かべる。
この場面のコントラストを際立たせるために星野源を使ったのだとしたら、大成功だろう。
こんな素晴らしいシーンもその後に小栗旬が「あなたの今はあなたが掴んだものだから、罪の意識をいただかなくていいんだよ」という説明セリフで台無し。
これは明らかに蛇足だよ。
なぜ星野源があの表情を浮かべたのかは観客に委ねていただきたかった。
続いての名シーン。
総一朗が母と再会するシーン。
幼少の頃の自分たちの声は幸せな星野源を苦しみを与え、総一朗に至っては人生が破壊された忌まわしき物であるが、総一朗の母にとっては死んでしまった娘の残した唯一の声であり、拠り所になったという、対比をうまく表していた。
このシーンがもっとも感動的であり、「罪の声」というテーマが一気に反転するという心に刺さるシーンである。
このカルタシスのまま、ここをラストシーン、そしてエンドロールへ・・・でよかったのではないだろうか?
このシーンのあとにくどいシーンが続くのだが、ここを大幅なカットし、その他の説明口調シーンを整理して全体を2時間ぐらいに収めれば、80点以上の傑作となったと思うと残念である。
しかし、観る価値のある作品であることは間違いないので、時間を十分確保できるときに、腰を据えてみてください。