社訓という洗脳装置からの脱出方法について

仕事

社訓!ひとつ!我々は!…べし!

今日も朝っぱらからでっかい声で、朝礼当番が社訓を唱えている。それに続いて、全員で声を揃えて唱える。

…べし!!

毎朝の光景だ。

これから始まる今日という日は、やはり昨日と同じくクソであろうことを予感させてくれるに充分なクソみたいな儀式。

これまで結構な回数の転職を重ねてきたが、ほとんどの会社で、朝礼があり、多くの会社で、この社訓の唱和(あるいは標語の唱和)という儀式があった。

朝礼の流れはだいたいこうだ。どこも似たようなものだろう。

1.ラジオ体操

2.挨拶の唱和

3.社訓の唱和

4.連絡事項

5.えらい人の訓話

6.締めの言葉

これは標準的なバージョンで、えらい人の訓話の代わりに持ち回りで「今日の一言」を発表させられる場合もあるし、ラジオ体操の代わりに社歌を歌わせられる場合もある。世の中に存在する数多のクソ会社では似たようなことを必ずやっているはずだ。なお、僕はフルバージョンのクソオブクソの会社にいたことがあり、その場合朝礼だけで30分以上(!)かかることもザラであった。地獄だ。

その中で僕が個人的に許せないのはダントツで「社訓の唱和」である。

ほとんどの社訓は社長の自己顕示欲が溢れんばかりで非常に気持ち悪い。

みんな、飲み会で上司に自慢話をされてウンザリしてるだろ?

社長はいわば上司中の上司だ。そんなキングオブ上司の自慢話をぎゅうぎゅうに押し込んだ圧縮ファイル、それが社訓だ。

飲み会なんかはせいぜい月に数回だ。上の空で相槌を打っておけば、自慢話も武勇伝もなんとかやり過ごせる。

しかし社訓はいけない。

朝っぱらの頭が最もクリアな状態に、そのブラッシュアップにブラッシュアップを重ねた圧縮ファイルをぶち込まれたら、たまったもんじゃない。

朝っぱらから社長の自己顕示欲を満たすために、全員で青筋立てて大声で同じ呪文を唱えるなんて、狂気の沙汰だろう。北朝鮮のこと笑えねーぞ。

さらにいうと自慢話系の社訓よりなおタチが悪いのは、こんなやつだ。

「お客様の笑顔のために、一心不乱になるべし!」

こんなのを毎朝唱え続けてみろ、必ず「仕事が終わらないから、サービス残業しよう、仕方ないよね、お客様のためだから」とか、「家族旅行に行くはずだったけど、キャンセルして休日出勤しよう、仕方ないよね、お客様のためだから」と平気で言う人間になってしまう。

そんな人間のことを何というか?

傀儡(くぐつ)である。

三重が「男はみんな傀儡」であると喝破した、あの傀儡だ。(シグルイを読んでください、面白いから)

俺は頭がいい人間だから、傀儡にはならないって?

一流大学の理系の合理主義者のガリ勉がヘッドギアを頭に巻いて「修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ」とぴょんぴょん飛び跳ねてたのは、そんな昔の話ではない。

勉強ばかりしていたから、騙されたんだって?

ハートマン軍曹の元で屈強な新兵達は「可愛いあの娘に興味ねえ🎵M14あればそれでいい🎵」と歌いながら殺人マシーンになっていったではないか。

あるいは、鬼畜米英!欲しがりません勝つまでは!と勝ち目のない戦争にキャーキャーはしゃいでいたのは、貧しく労働に明け暮れていたであろう僕たちの爺さん婆さん達だ。

そいつらの子供達は共産主義ブームに乗っかってキャーキャーはしゃいで革命ごっこに没頭したし、長じては共産主義など何処へやら拝金主義に転じてバブル経済にギラギラしていた。

その下の僕らの世代、ロスジェネは、小泉旋風にキャーキャーはしゃいで自らの首を絞めたし、自民党にお灸をすえるぜ、と民主党政権を樹立させ日本経済にトドメを刺し、そして仕事があるだけマシだとブラック企業を助長させてきた。

これからは進次郎とクリスタルにキャーキャー!お・も・て・な・し!と言って数年後にこんなはずじゃなかったと嘆くことだろう。

とにかく僕たちは老いも若きも、昔も今も、とにかく洗脳されやすい体質なのだ。

もういい加減、傀儡になるのはやめよう。

目をキラキラさせて「お客様の感動は、我々の感動です!」なんてクソっくらえだ。

あいつらはありとあらゆる機会を利用して僕たちを傀儡にしようとしている。ありとあらゆる機会をうかがい、僕たちから全てを奪っていく。

傀儡から人間に戻るには、まずは毎朝の社訓の唱和、コイツをなんとかしなければならない。

上司に直談判して社訓の唱和をやめるよう働きかけるべきかって?

それが出来ないから毎朝クソみたいな思いをしてるんだろ?直談判できる根性があれば、ブラック企業なんかさっさと辞めてキラキラしながら起業しとるわい。

僕たち小市民は、表面は従順な豆柴のふりをしながら、心にドーベルマンを飼おう。羊の皮を被ったシドヴィシャスだ。

洗脳されないように唱和なんかバックれだ。顔はニコニコ、心はアナーキー。

ここで注意しなければならないのは、傀儡(くぐつ)の大将だ。洗脳が完全に完了したホーリーネーム野郎のことである。ナチスSS、紅衛兵、拳王親衛隊。奴らの多くは総務だとか人事といった管理部門に多く生息している。(一人や二人すぐに思い至るだろ?)

我が同士は社訓の唱和の時間に、不貞腐れた顔で突っ立っていたら、ホーリーネーム野郎に見つかって、別室で説教を受けた上で、社訓の写経を一日中やらされ、能面のような顔面になってしまったのを見たことがある。

ホーリーネーム野郎はこっそり設置した監視カメラをチェックをし、不貞腐れた顔の彼をしょっ引いたという次第。(監視カメラを見るヒマがあったら仕事せーや、と思うのだが、本人は良きことをしたと本気で思っているから始末に悪い。狂った善人ほどタチの悪いものはない)

彼曰く「真面目な顔で突っ立ていただけ」とのことだが、羊の皮の隙間からシドがひょっこり顔を出してしまったのだろう。

そこで僕がオススメするのは、社訓の唱和の際に真面目な顔で口を大きく動かしながら、好きな音楽のサビを口ずさむことだ。

僕が気に入っているのはパンク。クソみたいな労働の前には、Oi!パンクがぴったりだ。気分はジミーパーシー。

中原中也や立原道造の一節を口ずさんでいた時期もあったが、いろいろ試してみたところ、Oi!パンクがしっくりくる。

汚れちまった悲しみじゃ、戦闘モードになりゃしない。

監獄をぶち破れ!Bostal Breakout!だ。

今日も元気にオプレストのサビを唱えていたところ、視線を感じた。となりの島の男性社員。確か先週、中途入社してきた男だ。彼は口を動かしてはいるが、社訓の言葉とはズレているよう。目と目が合う。彼の目は悪戯っぽく笑っている。おそらく僕の目も笑っていただろう。

ははは。クソのような会社のクソのようないつもの朝だが、なんだか愉快。この会社も捨てたもんじゃねーな。こんな悪くない朝もある。

「…べし!」

朝礼当番の悲痛な語尾が聞こえる。

僕らが唱和する番だ。

僕はオプレストを急遽やめ、違うのを口ずさんだ。

イフザキッズアーユナイテッド!ネバーギブアップ!セユボディ!!

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