評価・・・85点
あらすじ
ある夜、1台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装男性がおり、荷台には十数匹の犬が乗せられていた。「ドッグマン」と呼ばれるその男は、自らの半生について語り始める。
監督:リュック・ベッソン
キャスト
- ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(ドッグマン)
- ジョージョー・T・ギッブス(ドクター)
- グレース・パルマ(初恋の人)
- ワンちゃん達
感想(※以下、ネタバレあり)
リュック・ベッソン。
我々昭和世代にとって格別な存在です。
といってもある時期までは、という限定付き。
もっと具体的にいうとグランブルー、ニキータ、レオン、フィフスエレメントぐらいまでは。
あの頃のリュックベッソンは本当にすごかったんです。
これは私だけの印象かもしれませんが、東の北野武、西のリュックベッソン、真ん中のハリウッドにタランティーノ。そんなイメージ。
新時代を切り開く三銃士。そんな印象。
そんな彼はいつ頃からか作風をガラリと変え、爆発力を失い、そのくせ金と権力だけは持っている、珍しくもないその辺に転がっているロリコンクソジジイに成り下がってしまった…
そんな彼が4年ぶりにメガホンを撮った今作。裏切られることを前提に劇場に足を運びました。(私のなかでは、シャマランと同じ扱いですhttps://kutabire.com/knock)
これが驚くことに、裏切られるどころか、というか逆の意味で裏切られたというか、いい意味で裏切られた傑作でした。
リュック・ベッソンは女性を主人公に据えることが多い印象ですが、今回は女装の車椅子の男性。いわゆる異型の者。その彼がものすごく魅力的に描かれています。
物語は逮捕された彼がドクターにその半生を語る形式で進んでいきます。
なんで女装なの?なんで車椅子なの?ドッグマンってなんなの?といった観客の多くのクエスチョンを解きほぐしていく形で進んでいくため、ぐいぐい引き込まれていく仕掛け。
地獄のようなクソのような世界から救ってくれると信じていた女性が、陽キャの真っ当な側の人間にすぎず、すべてが自分の妄想にすぎなかったことがわかり、そこからダークサイドに落ちていくシーンは、ジョーカーを彷彿とさせますし、やはり人間よりもワンちゃんだよねとワンちゃんのために懸命に職探しをするも誰からも相手にされず、唯一手を差し伸べてくれたのが、同じように虐げられる側であるドラヴァクイーン達であることは、彼がアウトサイダーであることを決定づける印象的な展開でした。
このように書くとなんだか悲惨な絶望的な話に感じますが、ドラヴァクイーンとして一定の評価を得たり、他のドラヴァクイーン達との親交など、悲惨だけでないシーンもあり、感情を揺さぶられるナイスな展開でした。
また、彼が発する知的かつ含蓄あるセリフは思わず真似したくなるほどです。
「私は神を信じているけど、果たして、神は私を信じているのかしら?」とか「I’m standing for you」なんかはどっかで使ってみたいものです。
これらのセリフも、端正な顔立ちなイケメンが、あるいは知的な美女がそれを発すると嫌味な感じになりかねませんが、異型の者がそれをオネエ言葉で語るとものすごく知的で魅力的になります。
ドクターとの面談も終わり、映画はラストに向かって突き進んでいきます。
この頃、我々観客はドッグマンのとりこ。いったい彼はどうなっちゃうの?という最後の疑問の答え合わせ。
ドッグマンはゆうゆうと脱獄していきます。
いつでも脱獄できるにもかかわらず、ドクターにすべてを語ってから、ゆうゆうと脱獄するこのシーンは最高潮のカタルシス。そして、脱獄した後に、メッセンジャーの犬とドクターが目をあわせるシーンがありますが、それはドッグマンからの「あなたもこちら側の人間よ、神に愛されなかったこちら側の人間よ」というメッセージであったと思います。そして、それは我々観客にも「あなたもこちら側の人間よ」と言っているようでもありました。
ラストの「I’m standing for you」と叫ぶシーンはキリスト教が身近でない私でも半泣きだったので、キリスト教圏の人々にはグサグサと刺さり、さらにある一定の層の人々は大泣きするに違いない迫力ある印象的なものでした。
まとめ
乱暴にいうと、ジョーカーとミスターガラスを足して2で割ってドント・ブリーズを隠し味にした感じの映画です。
初期のリュック・ベッソンの各作品と比較してもけっして劣らない素晴らしい傑作でした。ぜひ観てください。